沖縄県における麻疹の多発 −県内3病院からの入院麻疹例の報告−

1998年9月〜1999年8月まで沖縄県内で麻疹の流行が持続した。1999年9月の小児科学会沖縄地方会において、県内の3病院に入院した麻疹患者の疫学、臨床像に関する発表が行われたので、その概要を報告する。

今回の流行は県内では1990年、93年以来の流行であり、1998年9月本島中部地区に始まり、12月に患者発生数の山を形成した後に一旦減少し、その後県全域に拡がり、本島中部地区で3、4月、本島南部地区で6月に患者数の大きなピークを形成した。約1年を経て、1999年8月にようやく終息するという長期間の流行であった。

3病院小児科の麻疹入院患者数は総計675人であり、そのうち1歳未満227人(34%)、1歳244人(36%)であり、幼若乳幼児の年齢層に多いことが特徴的であった。その他、15歳まで年齢とともに患者数は漸減した。6カ月未満は30人(4.4%)であり、1カ月未満は6人で、母親からの垂直感染が確認されたケースもみられた。生後4〜5カ月での罹患は、ワクチン世代の母親からの移行抗体が低値で消失が早いことによる早期罹患の可能性があったが、確認されていない。

合併症は、肺炎(65%)、胃腸炎(18%)、クループ(11%)が多く、脳炎5人(0.7%)、VAHS(virusassociated hemophagocytic syndrome)3人( 0.4%)もみられた。死亡患者は8人(1.2%)で、重症肺炎6人、脳炎1人、重症肺炎+脳炎1人であり、年齢は1歳未満3人、1歳3人、2歳1人、3歳(脳性麻痺児)1人であった。重症麻疹肺炎と脳炎の発症機序の解明と治療法の確立が望まれる。県内では、1999年3〜7月にアデノウイルス7型が分離されており、混合感染による重症化の可能性が指摘された。

一方、潜伏期にワクチンを接種し発症したケースを未接種者とみなすと、今回の入院患者の麻疹ワクチン未接種率は1歳未満も含め、98%であった。Vaccine failureは2.5%とみなされる。予防接種実施率を高めることにより流行の抑制が可能と判断した。Vaccine failureに対しては2回接種が必要と考えられる。1歳未満の患者数が多いことより、中部地区では1歳未満の乳児(9カ月以降)に対する麻疹ワクチンの任意接種が緊急的に行われた。

感染場所として病院内感染が指摘された。カタル期の患者との接触による外来、病棟での感染が疑われた。A病院では44%、B病院では29%が病院内感染と推定している。カタル期の患者からの感染予防は外来では困難であり、事前の予防接種以外に適切な対策はないと思われる。入院患者の場合、麻疹患者との接触者に対しては発病阻止を目的としてガンマグロブリン投与が行われた。隔離など適切な院内感染防止対策も同時に行われた。

今回の麻疹流行の主要な要因としては、県内における予防接種率の低さが指摘されている。県全体の麻疹ワクチン接種率(1997年)は61%と報告されている。地域格差があり、50%以下の市町村もみられた。一方、沖縄県小児保健協会の調査(1998年)では、1歳半健診時63%、3歳健診時84%と報告されている。いずれにしろ、予防接種率は麻疹の流行の抑制が可能なレベルに達していない。

沖縄県予防接種対策協議会は今回の流行に対し、流行状況の早急な把握につとめ、マスコミ等の協力も得て麻疹ワクチンの接種を呼びかけた。また、感染症発生動向調査の充実、広報等による啓発活動、乳児健診や保育園入園時の接種指導、1歳児の早期接種の奨励、未接種者に対する再通知、予防接種センターなど接種要注意者に対する接種体制の改善等々、種々の対策を講じている。今後、対策の実施により予防接種実施率の改善、麻疹患者数の減少、麻疹の撲滅が強く望まれる。

沖縄県立那覇病院小児科 安慶田英樹
沖縄県立中部病院小児科 小濱守安 安次嶺馨
中頭病院小児科 石原龍治 玉那覇栄一
那覇市立病院小児科 渡久地鈴香 知念政夫

今月の表紙へ戻る


IASRのホームページに戻る
Return to the IASR HomePage(English)

idsc-query@nih.go.jp

ホームへ戻る