ニューヨークにおける西ナイル様ウイルス脳炎の発生、1999年−米国

1999年8月下旬にニューヨーク市で最初に発生したアルボウイルス脳炎は、州内のニュ―ヨーク市近隣の郡においてもその発生が認められた。当初、血清および髄液のIgM捕捉ELISA検査を実施し、セントルイス脳炎(St. Louis encephalitis)と診断された。しかし、その後ヒト、トリ、蚊から分離されたウイルスを同定したところ、西ナイルウイルス(West Nile virus)に類するウイルスであることが判明した。

1999年8月23日、Queens北部にある病院の感染症内科医がニューヨーク市保健局に、2例の脳炎患者症例を報告した。ニューヨーク市保健局が調査したところ、5人の筋弛緩症状を呈した脳炎患者を含む6例の脳炎患者が同地区で発生していることが判明した。これらの症例について、9月3日、北アメリカに存在するアルボウイルスに対するIgM捕捉ELISA検査を実施した結果、セントルイス脳炎ウイルスに対して陽性であった。当初の脳炎患者8例は、Queens北部内の2マイル径内に居住していることがわかり、同日蚊に対する殺虫剤散布がQueens北部およびSouth Bronx地区において開始された。

この流行の範囲を限定するために、ニューヨーク市保健局は8月30日にサーベイランスを開始した。さらに9月3日にはWestchester郡保健局、Nassau郡保健局も積極的なサーベイランスを開始した。この流行と同時にあるいは先行して、地域保健局はニューヨーク市の鳥(特にカラス)の間で死亡数の上昇を観察していた。9月7日〜9日にかけてBronx動物園では2羽のフラミンゴと鵜、アジアキジ各1羽が死亡した。動物園で死んだこれらの鳥に関して行われた病理解剖の結果、死因は脳髄膜炎と心筋炎であった。

9月23日、これらの病理組織から分離されたウイルスを、CDCにおいてPCR法で増幅し、遺伝子解析を実施した結果、西半球では分離されたことのなかった西ナイルウイルスに極めて近いことが示唆された。さらに1例のヒト脳炎患者の剖検脳組織においても鳥から分離されたウイルスの遺伝子配列に対応する抗原が免疫組織化学的に検出された。その後、3人の脳炎患者の剖検脳組織においても西ナイル様ウイルス遺伝子の存在が判明した。すべての血清と髄液は、セントルイス脳炎ウイルス、西ナイルウイルス両者にIgM捕捉ELISA検査で陽性であったが、西ナイルウイルスに強く反応した。また、セントルイス脳炎ウイルスに対する検査でIgM抗体疑陽性例10例・陰性例8例が西ナイルウイルスに対してIgM抗体陽性であった。9月28日現在、17例が確定し、20例で強く西ナイル脳炎が疑われている。

これらの37例の地域的内訳は、死亡例4例を含む25例がニューヨーク市であり、8例はWestchester郡、4例はNassau郡であった。死亡例4例はいずれも68歳以上の高齢者であった。これらの患者のうち、1例は本年6月にアフリカに旅行しているが、34例は西ナイルウイルスの存在する地域への渡航歴はない。他の2例に関しては報告がない。発症日は、8月5日〜9月16日であり、ニューヨーク市では市全域において蚊の駆除対策が採られた9月11日以降に患者の発生はみていない。患者年齢の中央値は71歳であり(最年少15歳、最年長87歳)、重症例はいずれも高齢者であった。

最近のニューヨーク市の蚊サーベイランスプログラムによると、主要媒介蚊であるCulex pipiensの数は蚊コントロール対策により減少している。また、Westchester郡とNassau郡のヒト症例の確認および、蚊(Culex pipiensAedes vexans)、さらに近隣のコネティカット州からの病気の鳥からの西ナイルウイルス分離の結果、これらの地域でも蚊の駆除対策が開始されている。西ナイルウイルス汚染地域由来の鳥(野鳥/鶏)のサーベイランスも開始されている。

ヒトに対する新たな西ナイル脳炎のサーベイランスは、蚊の活動が鎮まると予想される初霜後数週間まで続けられる予定である。

(CDC、MMWR、48、No.38、845、1999)

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