1999/2000シーズン用インフルエンザワクチン株(インフルエンザワクチン株選定会議内容より)

平成11年度(1999/2000シーズン)インフルエンザHAワクチン製造株およびウイルス含有量については、「通知」にあるように決定された。

この決定は、国立感染症研究所内に設置され、平成11(1999)年2月〜4月にかけて3回にわたって開催されたインフルエンザワクチン株選定会議(委員長:田代眞人ウイルス製剤部部長)において、研究所内担当スタッフ、外部有識者の他、オブザーバーとして厚生省結核感染症課および血液対策課、細菌製剤協会が参加し、国内外のインフルエンザの流行状況と流行予測、WHOによるワクチン推奨株の選定経過、ワクチン候補株についての予備実験成績などをふまえて議論された結果を、国立感染症研究所所長から厚生省に報告し、それに基づいて決定通知されたものである。以下は、選定会議が1999/2000シーズンワクチン製造用株の推奨について報告した概要である。

世界における流行状況:1998/99シーズンのインフルエンザ流行状況は、国外ではA/H3N2型(シドニー型)が主流であり、散発的にB型の小流行がみられた。B型については、欧米では山形系統(北京/184/93系統:昨年のワクチン株であるB/三重と同系統)のみであったが、東アジアでは山形系統に加えてビクトリア系統(山東/7/97系統)が共存していた。1999年2月のWHO専門家会議では、1999/2000シーズンについても、基本的にはA/H3(シドニー類似株)型が主流であり、それに欧米では山形系統が、東アジアでは山形系統とビクトリア系統が共存したB型の流行の可能性のあること、そしてA/H1型による大きな流行はないであろうと予想している。

 WHOによる1999/2000シーズン北半球用のワクチン推奨株は、
 1)A/Beijing(北京)/262/95(H1N1)-like
 2)A/Sydney/5/97(H3N2)-like
 3)B/Beijing(北京)/184/93-likeまたは
   B/Shangdong(山東)/7/97-like
となっている。

日本における流行状況:わが国における1998/99シーズンもA/H1型の大きな流行はなかったが、同シーズンのワクチン株であるA/北京/262 /95(H1N1)類似株が少数分離された。流行の主流はA/H3型であり、そのほとんどはワクチン株A/シドニー/5/97(H3N2)と同一のウイルスであったが、HI試験で8倍以上変異したA/福島/99/98(H3N2)類似株が少数分離されている。B型はシーズン後半の小流行の中心となったが、山形系統(北京/184/93類似株:昨年のワクチン株であるB/三重と同系統)およびHI試験で8倍以上ずれたビクトリア系統(B/山東/7/97類似株)が共存していた。

1999/2000シーズンの流行予測とワクチン製造株および抗原量の推奨:A/H1型は、最近3シーズンは大きな流行が無かったことから、今シーズンはH1型の流行を念頭に置く必要がある。最近は大きな変異株も分離されていないので、ワクチン製造株としては、昨シーズンの実績を踏まえて、交差免疫原性が広く製造効率もよいA/北京/262/95(H1N1)が適当であると判断された。

A/H3型は3年連続して流行したが、過去に同一亜型がこれ以上連続して流行した例は無い。また、シドニー株系統は2シーズン連続して流行したので既に多くの人が免疫を持っており、A/H3型による大きな流行の可能性は低いと判断された。しかし、H3型のなかでは引き続きシドニー株系統が主流を占めるものと予測される。一方、シドニー株から抗原性が大きくずれたA/福島株、A/四川株などの変異株ついても考慮する必要性が議論されたが、これらの変異株の分離数は少なく、1999/2000シーズンの主流を占める可能性は低いと判断された。さらにこれらの変異株は発育鶏卵での増殖性が悪く、ワクチン製造株としては不適当であることが実験的に判明した。一方、シドニー株ワクチンで十分に免疫をしておけば、これらの変異株に対しても1/2程度の交差免疫が期待されるため、A/H3型ワクチン製造株は昨シーズンと同じくA/シドニー/5/97(H3N2)株とし、その抗原量を多めにすることが適当であると判断された。

B型については、流行の主流とはならないものの、引き続き山形系統(昨年のワクチン株三重など)とビクトリア系統(山東/7/97類似株)の2系統のウイルスが共存して流行する可能性が予測される。しかしB型ワクチン株を2株とすると、1株あたりの抗原量が少なくなり効果が減弱してしまうことが危惧される。一方、ビクトリア系統の山東/7/97株ワクチンで免疫すれば山形系統のウイルスに対しても約1/2の交差反応性が示されるとの実験データより、山形系統のウイルスにもある程度の防御効果が期待できるとして、B型についてはB/山東/7/97株が適当であると判断された。

ワクチンの抗原量については、生物学的製剤基準によりインフルエンザHAワクチンの蛋白量は 240μg以下と決められており、これは約850CCA相当量となる。これを3株で案分することになるが、インフルエンザによる健康被害はA/H3型によるものが圧倒的に多いので、A/H3型を中心に考慮すべきである。

1999/2000シーズンは、A/H1型の流行も予測されるが大流行とはならず、その健康被害も大規模では無いと判断されるので、ワクチン抗原量としては若干少なくてもよいであろう。

A/H3型については、A/シドニー/5/97(H3N2)の変異株に対する交差免疫を高めておく必要性から、抗原量を多めに設定した。

B型についてはビクトリア系統であるB/山東/7/97株によって山形系統に対しても交差免疫性を高めておく必要性から抗原量を若干多めにするとされた。 以上よりインフルエンザワクチン株選定会議では以下のワクチン製造株および抗原量が1999/2000シーズン用として推奨された。

 A/H1N1型 A/北京/262/95(H1N1) 200CCA
 A/H3N2型 A/シドニー/5/97(H3N2) 350CCA
 B型 B/山東/7/97 300CCA

国立感染症研究所
感染症情報センター・感染症情報室

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