インドネシア・ビンタン島で感染した熱帯熱マラリアの一例

1999年7月4日〜 7月9日まで、インドネシアのビンタン島を家族とともに訪れた37歳の日本人男性が帰国後の7月19日に発熱した。下関市内の病院を受診し、風邪と診断され内服薬を処方されていたが、高熱が持続するため、7月24日午前に同市内の別の病院を訪れた。同病院でマラリアと診断され、その日の夕方産業医大病院に搬送、緊急入院となった。

この時点では、マラリアの種同定ができていなかったので、直ちに血液薄層塗沫ギムザ染色標本を作製して鏡検した結果、熱帯熱マラリア原虫が検出された。感染赤血球率は7.5%であった。直ちに治療が開始された。7月24日午後5時、メフロキン2錠を経口投与し、6時間後の午後11時にさらに2錠追加投与した。しかし、その1時間後患者が嘔吐したため、さらに1錠追加した。その後、感染赤血球率は順調に低下し、翌日25日の夕方には1.9%、26日には0.4%、そして投与後5日目の29日には血液厚層塗沫ギムザ染色標本でも検出されないようになった。

この患者は来院当初から、熱帯熱マラリアに起因する血小板減少と溶血性貧血、肝機能障害、腎障害がみられた。治療開始後これらの合併症も改善に向かい8月12日退院となった。

患者はビンタン島滞在中の7月7日と8日の夕刻に海岸を散歩し、その時に蚊によく刺されたと述べている。インドネシアやマレー半島の海岸地帯ではマラリアの主たるベクターは海岸の潮だまりに発生するAnopheles sundaicusであると言われていることから、この蚊の吸血が直接の感染原因であった可能性が高い。

ビンタン島はシンガポールの裕福な人達や、日本、欧米、オーストラリアからの観光客を対象とした高級リゾート地として開発され、ホテルやゴルフ場が作られている。最近は日本人も年間5万人程がこの地を訪れていると言われている(旅行社情報)。ビンタン島は古くからマラリアの流行地として知られていたが、開発にともない患者発生の報告は少なくなり、マラリアの流行は鎮静化していたようである。しかし1997年に同地で感染したと推定される多数のマラリア患者の発生がみられた。この頃の同地での日本人感染例がIASR Vol.18、No.7に「海外新リゾート地帰りの重症マラリアの一例」として永倉らにより報告されている。欧米の旅行社では、現在でもこの地を訪れる観光客にインターネット等を通じマラリア感染の危険性について注意を呼びかけている。一方、わが国の旅行社は同地への観光客に対しマラリアの危険性についてほとんど情報を提供しておらず、この患者も何ら情報を与えられていなかった。同地を訪れる観光客はマラリアの感染予防に注意するとともに、もし帰国後発熱をみた場合には、マラリアの可能性を医師に告げることが重要である。

産業医科大学医学部寄生虫学熱帯医学教室 堀尾政博 金澤 保
産業医科大学医学部第2内科学教室 柴田達哉 高水間亮治 中島康秀
済生会下関総合病院 小畑秀登

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