千葉県内で発生したパラチフスの集団事例について

近年、日本におけるパラチフスの集団発生は極めて稀である。千葉県では1998年、県内の飲食店利用者に発生したパラチフスの集団事例を経験したので、その発生状況および分離菌株の解析結果の概要を報告する。

1998年4月上旬、複数のパラチフス患者が発生した(図1)。患者発生は5月中旬まで続き、有症者26人中19人からSalmonella Paratyphi A(S. Paratyphi A)が分離された。26人の年齢、性別は様々であったが、いずれも過去1年以内の海外渡航歴が無く、その居住地は千葉県内のA市を中心に極めて限られた地域である。調査の結果、全員が発症前1カ月以内に、A市にあるK料理店を利用したことが判明した。特に26人中23人は、3月下旬の特定の日に同店を利用していた。これらのことからK料理店が原因施設と推定された。同店は従業員60人ほどの施設で、他に系列店が3店舗あるが、他店からは発生していない。有症者の喫食調査、同店の環境および食品の検査では原因は判明しなかった。また従業員の検便を2回にわたり行ったが病原菌は検出されなかった。

分離されたS. Paratyphi A 19株のファージ型はすべて4であった。薬剤感受性は全株がストレプトマイシン(SM)にやや耐性を示し、うち2株がセファロチン耐性、1株がテトラサイクリン耐性、1株がカナマイシン耐性であった。パルスフィールドゲル電気泳動法(PFGE)によるDNAの制限酵素Bln I切断パターンは全株で一致した(図2 Lane 13〜16)。Xba Iでも同様であった。本事例は同一のS. Paratyphi Aによる集団感染と考えられる。

千葉県では、1993年9月〜1994年8月にかけてもパラチフスの流行があり、8名の患者が発生した。患者はいずれも海外渡航歴が無く、居住地が近いことから、特定の感染源からの感染が疑われたが、原因は不明であった。その居住地は上述集団例と重なっている。分離されたS. Paratyphi A 8株の薬剤耐性は全株SMにやや耐性、ファージ型は4であった。

さらに、1995年〜1998年1月までに分離されたS. Paratyphi Aのうち、散発の国内感染例由来で、薬剤耐性およびファージ型が上述の集団例および流行例由来株と一致する株が4株あった。これらの菌由来患者4人の居住地は上述2事例の発生地と重なっている。そこで、菌のDNAの切断パターンをPFGEで調べた。1993〜94年流行株(図2 Lane 2〜8)および散発国内感染株(図2 Lane 10〜11)のBln I切断パターンは1998年集団株(図2 Lane 13〜16)のそれと一致した。このパターンは、いずれの海外感染由来株(図2 Lane1、9、12、17)とも異なっている。Spe I、Xba IおよびXho Iでも同様の結果が得られた。

以上のことから、千葉県における一連のパラチフスの国内感染は特定の感染源から伝播されていることが強く示唆された。現在さらに検索を進めている。

千葉県衛生研究所 依田清江 小岩井健司

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