腸炎ビブリオによる大規模食中毒の発生事例−滋賀県

全国的な食中毒発生件数の増加傾向と同様に、1998年には滋賀県内でも過去10年間のうち最も多い17件の食中毒事件が発生し、病因物質別では腸炎ビブリオ食中毒が5件と最も多かった(表1)。そのうち1件は、腸炎ビブリオを原因とした食中毒としてはまれみにる大規模事例であったので、その概要を報告する。

1998年7月7日午前、水口健康福祉センター(保健所)に、甲賀郡内のK店営業者から、「当店で製造した事業所用の給食弁当を食べた者の中から、食中毒様症状を訴えている者がいる」旨の報告があった。また、近隣の複数の医療機関からも食中毒患者を診察した旨の届出があった。

発症者の共通食事は、K店が7月6日に製造した昼食用の弁当しかないことから、当該弁当による食中毒事件と断定された。

K店は、給食弁当以外にも郡内6カ所の事業所の給食を受託しており、これらの事業所の給食を食べた者の中にも発症者がいることが判明し、発症者は県内26市町をはじめ、近隣の6府県でも発生し、喫食者数2,147人中1,167人(発症率54%)になった。

発症者糞便136件中109件から腸炎ビブリオが検出され、分離された腸炎ビブリオはすべて耐熱性溶血毒産生であったこと、腸炎ビブリオ以外に有意な食中毒起因菌が検出されなかったこと、ならびに疫学的所見から、腸炎ビブリオが本食中毒の病因物質と断定された。

発症者糞便から一人あたり1〜5株、計120株の腸炎ビブリオの血清型を調べたところ、O1:K56が59株と最も多く、そのほか6種の血清型が分離された(表2)。

検食、原因施設のふきとりや井戸水からは腸炎ビブリオは検出されず、χ2検定の結果からも原因食品は特定できず、汚染経路についても明確にできなかった(表2)。しかし、検食(冷凍保存品)の大豆・アサリの煮物および角揚げの煮物の増菌培養液からVibrio alginolyticusが検出された。この知見から、これらの増菌培養液中の腸炎ビブリオ耐熱性溶血毒(RPLA法:デンカ生研製)、耐熱性溶血毒および類似溶血毒の遺伝子(PCR法)を調べたが、いずれも検出されなかった。V. alginolyticusが検出された食品は弁当容器の同一区画に盛りつけられていたこと、海洋細菌である本菌や腸炎ビブリオに汚染されていた可能性のある食品原料としてはアサリが最も可能性が高いことから、アサリの加熱不足あるいは二次汚染などにより煮物中で増殖し、これらの食品を摂食した結果、食中毒が発生したと推測している。

当該施設では、「大量調理施設の衛生管理マニュアル(厚生省、平成9年3月)」で規定されている衛生管理体制が確立されておらず、運営管理責任者、衛生管理者、調理従事者の役割・責任体制が不明確であり、食品衛生に対する関心が低かったことも発生要因として考えられた。

また、このような大規模食中毒が発生した際には、疫学調査、細菌検査等において、関係機関の協力が不可欠であり、関係機関の連携強化については今後とも十分に図っていく必要がある。

滋賀県立衛生環境センター
林 賢一 石川和彦 松根 渉 橋本 正
草津健康福祉センター
杉山信子 山田和枝 岩崎由紀
長浜健康福祉センター
児玉弘美 橋本信代 安田和彦

今月の表紙へ戻る


IASRのホームページに戻る
Return to the IASR HomePage(English)

idsc-query@nih.go.jp

ホームへ戻る