広島市におけるSalmonella Oranienburgによる散発的食中毒事例の増加とdiffuse outbreakへの展開

昨年来、広島市では医療機関から保健所へ散発事例的な食中毒の届け出がなされた場合、検出菌を確保して衛生研究所において血清型別や病原因子の確認を実施し、食中毒発生および起因菌の動向把握に努めている。

昨年11月からO7群サルモネラ菌の漸増傾向が認められ、血清型のほとんどがS. Oranienburg(O7:m,t:-)であった。3月には12株のS. Oranienburgが収集され、患者は幼児に多く、中には敗血症を併発した症例もみられた。本市ではこの散発事例の多発原因を探るため、事例の聞き取り調査の強化と厚生省への情報提供ならびに他地域の発生状況照会、分離菌株の疫学的解析を実施した。

その結果、今年に入って分離された株はいずれも、昨年11月、12月に分離された2株とは薬剤感受性(NA、TC、KM、CP、SM、AMすべて感受性)が同じであったが、生化学的性状でイノシット発酵性が異なり[イノシット(−)、API20Eコード6704552]、6種類のプライマーによるRAPD法およびXbaI、 BlnIによるパルスフィールド電気泳動法(PFGE)のいずれにおいても異なったパターンを示す株であった(図1)。これらの結果から、今年に入って3カ月にわたり何らかの原因でS. Oranienburgが市内に侵淫している可能性が示唆されたが、原因は依然不明であった。

4月に入り、川崎市の集団食中毒を発端とした横浜市、東京都の検査において「バリバリいか」および「おやつちんみ」よりS. Oranienburgを検出したとの厚生省からの情報により全国的な波及が懸念された。本市においても1月以降のS. Oranienburg感染患者の中に「おやつちんみ」喫食者が複数いることを確認し、回収された「おやつちんみ」からも患者株と同一の性状[イノシット(−)、薬剤感受性およびRAPDパターン図1]の株が検出されたことから、本市におけるS. Oranienburg散発患者増加の主原因がこの食品によるdiffuse outbreakであったことが明らかとなった。

なお、この食品からはリジン脱炭酸陰性のSalmonella Chester(O4:e,h:e,n,x)も同時に検出されており、この血清型菌も今回の広域感染事例に関与している可能性が示唆された(続報参照)。

今回の事例はdiffuse outbreakの探知における菌株解析の重要性と、情報の早期収集・解析・還元の必要性を提示するものであった。

広島市衛生研究所
高杉佳子 高垣紀子 児玉 実 石村勝之
毛利好江 伊藤文明 河本秀一 笠間良雄
山岡弘二 荻野武雄

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