CT-SMAC平板のNon-O157 STEC分離培地としての有用性−秋田県

志賀毒素産生性大腸菌(STEC)O157とO26に特異性の高い選択分離培地として、それらのCT耐性と糖分解性状の特徴を利用したCT-SMACとCT-RMAC(本月報Vo.19、No.10、1998)がそれぞれ広く使用されている。これに対して、O157とO26以外のSTECに特異性の高い選択分離培地は開発されていないために、DHLなどの分離培地が利用されることが多い。その場合、常在大腸菌の中からそれらのSTECを釣菌することに困難を伴う。我々は、秋田県内で発生したSTEC O121:H19やSTEC O145:NM感染事例の検査に際して、これらのSTECがCT-SMAC平板に発育することを経験した。特に、STEC O121:H19感染事例の患者家族の検査において、CTの選択作用によりDHL平板では分離困難であったSTEC O121:H19をCT-SMACにより極めて容易に分離し得た。これらの経験に基づき、当所に保存されている各種血清型のSTECのCT-SMAC平板における発育について検討したので報告する。

に示すように、16種類の血清型のSTEC計41株を供試した。これらのうち、STEC O8群、 O91群、 O150:H8、 O171:H2、 OX3:H21はCT-SMAC平板に発育しなかったが、それ以外の血清型のSTECはCT-SMACに発育することが確認された。ただし、STEC O103:H2には発育する株としない株が認められた。CT-SMACに発育した株はすべてソルビトールを分解するために赤色コロニーを形成した。なお、CT-SMACに発育しないSTECはいずれもeaeA遺伝子を保有していないことから、CT-SMAC上の発育がeaeA遺伝子の存在と関連する可能性が示唆された。ただし、eaeA遺伝子を保有しないSTECの中にもCT-SMACに発育する株がみられ(O126:NM、 O146:H19)、例外が存在するようである。

Non-O157 STECの感染実態をより詳細に解明するためには、特異性の高い選択分離培地を実用化することが必要と考えられる。今回の成績は、少なくとも一部のNon-O157 STECの分離に関して、CTが選択剤としてSTEC O157やO26と同様に有用であることを示しているが、CT-SMACではコロニーの色調から同時に発育した菌とNon-O157 STECを識別することは困難と考えられる。今後、これらのSTECについてマーカーとして使用可能な性状を解明することにより、特異性の高い選択培地を開発し得る可能性があると考えられる。いずれにせよ、現時点では、CT-SMACによりSTECを検索する際、O157様コロニーだけではなく、大腸菌様赤色コロニーも検索対象としてSTECの同定を試みることにより、特にO121:H19やO145:NM、 O111群などのNon-O157 STECについて検出精度の向上が期待できると考えられる。ただし、その際、CT感受性STECの存在も考慮し、CT不含の分離培地も併用すべきである。

秋田県衛生科学研究所 八柳 潤 齊藤志保子

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