カレーライスを原因とするウェルシュ菌の集団食中毒事例−横浜市

1998年12月7日、横浜市内の小学校の校庭で開催された地域のソフトボール大会に出場した小学生と付き添いの父母が下痢等の食中毒様症状を呈している旨、所轄保健所に連絡が入った。調査を行った結果、このソフトボール大会は6日に開催され、そこで昼食にカレーライスを摂食した359名のうち173名が当日夜半より下痢、腹痛を主症状とする比較的軽い食中毒症状を呈していることが判明した。このカレーは、5日14時〜21時にかけて大会役員宅の庭で8名の父母が大釜2つを用いて800食分のカレーを調理し、翌日の6日まで室温放置され、11時頃から1時間ほど再加熱して提供されたことが判明した。米飯は市内の業者に注文したものであった。そこでカレーライスを原因とする集団食中毒を疑い、原因物質の検索を行った。

細菌学的検査は、残品のカレー・米飯、調理器具等のふきとり検体、患者および調理従事者の検便について行った。その結果、残品のカレー、患者(87/106名、82%)および調理従事者の検便(4/11名、36%)からウェルシュ菌(Hobbs型別不能、エンテロトキシン産生・遺伝子保有株)が検出された()。

残品のカレーについては、菌が芽胞で存在する可能性、他菌の存在下での検査への影響を考慮して以下のように検査を行った。85℃10分の加熱処理をした検体と非加熱処理の検体の両方について、検体1g、0.1g、0.01gの希釈系列を作製しTGC培地を用いてMPN3本法で菌数測定を行った。その結果、加熱処理した検体1gの希釈系列の3本よりウェルシュ菌(Hobbs型別不能、エンテロトキシン産生・遺伝子保有株)が分離され、100gあたりのMPN値は230であった。非加熱処理の検体では1gの希釈系列3本でガスが認められたが、ウェルシュ菌は分離されなかった。また、食品を増菌したTGC培地からのPCR法によるエンテロトキシン遺伝子の検索を試みたが、加熱検体・非加熱検体ともに検出されなかった。

原因物質のウェルシュ菌は環境や人・動物の腸管に存在する菌である。今回は屋外で調理した際に何らかの形でカレーの中に菌が混入したこと等も考えられる。調理したカレーを一晩室温放置している間に菌が増殖し、摂食前の二次加熱が不十分だったことが今回の食中毒の発生要因であったと考えられる。

横浜市衛生研究所
松本裕子 山田三紀子 鈴木正弘
北爪晴恵 武藤哲典  藤井菊茂
横浜市神奈川保健所

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