髄液からインフルエンザウイルスA香港型が分離された髄膜脳炎の成人例

 症例:32歳の女性
 現病歴:1999(平成11)年1月9日頃(妊娠9週5日)から発熱・後頸部痛を認め、某医にて内服薬処方されるも軽快せず、精神不穏を認めたため1月13日某市民病院に入院となった。入院後も39℃以上の発熱、不穏症状の増悪を来たし、1月18日に関西医科大学産婦人科に転院となった。呼吸状態の悪化を認め、1月22日救命センターに転科となった。
 入院後経過:呼吸状態不良のため、気管内挿管し、人工呼吸器管理とした。項部硬直を強度に認め、髄液所見(色調は無色で混濁は無し。パンジー(−)、トリプトファン(±)、 糖69mg/dl、 蛋白26mg/dl、 細胞数 167/mm3 単核球/多核球は10:1)よりウイルス性の髄膜脳炎と診断した。入院時の血液検査所見はWBC 7,200/μl、 CRP 1.0mg/dl、 Na 141mEq/l、 K 3.6mEq/l、 Cl 111mEq/l、 GOT 10U/l、 GPT 11U/l、 LDH 242U/l、 総蛋白 5.7g/dl、アルブミン 2.4g/dlで、その他は特に異常所見を認めなかった。入院時の頭部CTは特に脳浮腫等異常所見を認めなかった。意識レベルは、JCS 1OO程度から改善傾向を認めなかった。またbacterial translocation予防のため、経腸栄養を開始したが下痢を頻回に認め、栄養および水分補給が不十分なため、高カロリー輸液を併用した。入院後、連日39℃以上の発熱の低下傾向を認めないため、血液培養、喀痰培養、尿培養、便培養を施行し、抗生剤の投与を行った。意識障害が持続し、喀痰排泄も困難なため、2月13日に気管切開術を施行した。髄液所見等よりへルペスウイルスによる脳炎を疑っていたが、1月20日の髄液のウイルス分離培養でインフルエンザウイルスA香港型が検出されたため、インフルエンザによる髄膜脳炎と診断した。2月9日から全身性痙攣を時折認め、意識レベルもJCS 20以上には改善せず、喀痰・口腔内分泌物量が多いことから呼吸器からの離脱は3月12日現在できていない。39℃以上の発熱も依然として連日認めている。3月5日の頭部CTでは、びまん性に軽度の脳萎縮を認めた。小児のインフルエンザ脳炎の報告は散見されるが、成人のインフルエンザ髄膜脳炎の報告は極めて稀である。

関西医科大学救急医学科
箱田 滋 松尾信昭 中谷壽男
   同産婦人科  八百井雅美
   同小児科   蓮井正史
大阪府立公衆衛生研究所ウイルス課
前田章子 加瀬哲男 奥野良信

今月の表紙へ戻る


IASRのホームページに戻る
Return to the IASR HomePage(English)

idsc-query@nih.go.jp

ホームへ戻る