眼科における病原体情報

眼科における病原体情報は、サーベイランス定点のうち検査定点に指定されている眼科医の協力と、日本眼科医会のサーベイランス情報に対する積極的参加によるところが多い。アデノウイルスによる流行性角結膜炎(EKC)は、第35週をピークにして観察されているのが全国的発生状況であり、その原因病原体はアデノウイルス8、19、37型によっている。しかしこれらの病原体情報は、限られた定点でしか進められていないので、今後眼科定点よりの検体に対する地方衛生研究所の理解が望まれる。

今回はわが国の眼感染症サーベイランスにおいて、最もEKCの発生が多い沖縄県の病原体情報、各地で散発している急性出血性結膜炎(AHC)の発生状況と、その検出における問題点と各地で発生する院内感染における病原体情報の3つについて報告する。

 1.沖縄におけるアデノウイルス(Ad)の検出

眼から分離されるウイルスでAdは最も多く、Ad結膜炎の臨床像は血清型の性状と関係している。本邦では咽頭結膜熱(PCF)におけるAd3、7型、EKCにおけるAd8、19、37型は代表的な血清型である。また、Ad4型もEKCの病因となり得る。

1998年7月〜12月の半年間に札幌、横浜、沖縄の3地点の眼科を受診した急性結膜炎患者から採取された結膜擦過材料からAdの検出、血清型同定を試みた。方法は斎藤らのPCR-RFLP法に従った。Adを構成するヘキソンをPCR で増幅し、その産物を3制限酵素を用いて切断し、そのDNAパターンの組み合わせによりAd血清型を同定した。札幌ではAd19型が62%(24/39)と大半を占め、ついでAd3型23%(9/39)、Ad7型7.7%(3/39)と続いた。横浜でもAd19型が47%(9/19)と最多で、Ad37型32%(6/19)、Ad3型16%(3/19)などであった。これは近年の静岡県における眼科領域のAd検出状況(本月報Vol.19、No.6、1998)と一致し、本邦におけるAd19の流行の兆しを示唆するものと思われた。一方沖縄では、全例がAd8型(13/13)であった。地理的に本土と離れている沖縄は、本土とは異なる流行を呈していると考えられた。今後さらに検体数を増やして、沖縄ではAd8型が主体なのか継続的な調査が必要である。また沖縄住民のAd抗体保有率による血清疫学調査も行う予定である。

 2.AHCの韓国帰国者における流行

1998年夏季に国内各地でAHC患者の報告が行われている。われわれも札幌市内において10名のAHC患者に遭遇した。これらの症例は発端者が夏休みに韓国のソウル近郊へ旅行しており、現地でキャンプを行った2家族と、院内感染と思われる1名からなっている。RT-PCR法によってエンテロウイルス70(EV70)が検出され、回復期血清のEV70中和抗体価上昇も見られた。ほぼ全例に結膜下出血が見られ、2〜10日で症状は消失、上気道炎症状は50%に見られた。小児の患者では、軽微な眼外症状に終始している症例の上眼瞼を翻転してみて初めて典型的な結膜下出血の病巣を見い出した症例も含まれており、AHC患者の検出には疫学情報が参考になる。さらにウイルス分離が成功しないEV70においてはRT-PCR法が有用である。しかしこの変異の早いウイルスにおいてはプライマーの選択が時に必要であり、また得られた病因情報が型分けにも有効な資料を今後提供するであろう。

 3.Ad19型の新しいゲノムタイプによる院内感染

Ad19型は、わが国においては長く散発例から分離されていたが、1997〜98年には院内感染からしばしば報告されている。これら最近の複数の院内感染からのAd19型分離株と1992および93年の分離株とを制限酵素切断パターンで比較検討した。BamHIおよびSmaIにおいて1997年(札幌)および1998年(東京)の株は実質的なプロトタイプであるAd19aと異なるパターンが示された。1997年の分離株はSmaIの切断パターンが異なっており、1998年の分離株はBamHI、SmaI両者の切断パターンがAd19aと異なっており、これらは新しいゲノムタイプと考えられていた(図1)。Ad19型の再流行および院内感染の増加の背景にはゲノムレベルの変異が関与している可能性が示唆される。

アデノウイルスによる院内感染は稀なものではなく、病院での発生も経験されており、抗体保有率の低い新しい血清型による院内感染も最近見いだされており、湿度の高い時期には院内感染に充分配慮する必要がある。

横浜市大眼科
大野重昭 内尾英一 伊藤典彦 竹内 聡 田中ケイ子
MBC感染症特別開発部 石古博昭
東京医大眼科    臼井正彦 薄井紀夫
青木眼科・札幌市  青木功喜

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