本邦における麻疹ワクチン接種率

ある地域の小児の麻疹ワクチン接種率を算定する方法として次の二つが考えられる。

 1.各年度における接種率(接種実施率):各年度、各市町村が予定した接種者のうち何%の小児が接種を受けたか。

厚生省の公的発表では、定期予防接種の実施率はその年度に各ワクチンの接種年齢に達した小児の数を人口統計から求めて分母とし、その年度に接種を受けた人数を分子として算定しているので、分子にはその前年以前にすでに該当年齢に達していたが遅れて接種した小児の数も加算される。その結果、1996年の麻疹ワクチン接種率は93.9%、同年のDPT 三種混合ワクチンの初回1回目の接種率が107%と報告されている。麻疹ワクチンが95%近く接種されていれば流行はほぼ消失しているはずであるが、実際は毎年本邦各地区で麻疹が発生し、死亡例も報告されている。DPT1回目が100%以上という数字も実態から遠いことは明らかである。

筆者らは定期接種の実施状況を全国規模で把握する目的で、1989年以来厚生省予防接種研究班員として全国の市町村の行政の現場に実態調査を依頼し、全国集計の結果を各市町村に提言と共に還元する努力を実施してきた。10年間の各市町村との共同作業により下記の状況が徐々ではあるが全国的に実現可能となっている。

 (1)実情にあった接種実施率を算定するには、各市町村の接種計画策定にあたり接種対象者として各年度の新規接種対象年齢参入者だけでなく、それまでに未接種だった者(積残し者数)も接種対象者数に加算すること。
 (2)各地区の比較のためには年度(4月〜翌年3月)の集計に統一したいこと。
 (3)接種方式(年齢、個別接種か集団接種か、有料か無料かなど)の全国調査。
 (4)定期予防接種の通知法や定期外の接種に関する対応などの全国状況調査。
 (5)これらの結果を各市町村に還元して、より良い接種計画立案を目指してもらう。

1994年の予防接種法改正前後の麻疹ワクチン接種状況を「積残し者加算方式」の全国集計でに示す。全国42都道府県、市町村数3,000前後に居住する100万人以上の接種者について情報が得られている1)。その結果、

 (1)麻疹ワクチン接種方式は接種法改正以前から個別接種で実施されている小児が多く、1歳から接種されている小児が増加(以前は1歳半開始だった地区が多かった)している。接種率=接種実施者/接種予定者は74〜75%となっている。
 (2)法改正前後で接種率に変動は認められない(中学生を対象とした風疹ワクチン接種率などでは接種率が著明に減少している。これは別の機会にぜひ紹介したい)。

 2.一定の年齢の小児群のワクチン接種実施率:3歳児健診や小学校入学健診時の調査。

本邦では全国調査は実施されていないが、各地域単位で実施されており例示したい。

 (1)小学校入学時健診:埼玉県浦和市の1998年小学校入学予定者4,693名のうちで麻疹ワクチン接種終了者87.5%、麻疹罹患既往者3.9%、ワクチン未接種かつ麻疹未罹患者5.7%となっていて、ワクチン接種率は高いとはいえ90%未満であることや、小学校入学時で未接種・未罹患の例が目立つ。周囲での流行が減少し、自然感染者との接触によるナチュラル・ブースターの機会もないことから、年長児ないし成人になってからの感染発病が危惧される1)。この年長児における麻疹未罹患・ワクチン未接種児は最近の各地区の報告からも5〜8%は認められていて、年長児を対象とした麻疹ワクチンの追加接種の必要性を考慮するためにも全国的調査が急がれる。

 (2)3歳児調査:愛知県における全県的調査(8保健所、抽出率21.7%、調査数3,338名)2)ではワクチン接種済み者は83.3%となっており、この場合未接種児は定期接種年齢期間内であるので接種参加を急がせることができ、こうした3歳児のチェックも麻疹対策上重要と思われる。

 文 献
1)厚生省予防接種研究班報告書 1998年3月
2)愛知県衛生部資料 1997年7月

名古屋大学医学部国際保健医療学 磯村思无

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