昨シーズンに流行したインフルエンザウイルスの性状と今シーズンの流行予測

1.1997/98シーズンのウイルス

 1)A香港(H3N2)型ウイルスの抗原構造および分子進化:インフルエンザウイルス感染フェレット血清による抗原分析によって、A/武漢/359/95様変異株とA/佐賀/128/97(A/シドニー/5/97株とほぼ同じ)様変異株(前者が同シーズンのワクチンに含まれていた)が共存して流行していることが明かとなった。各地方衛生研究所から送付されてきた分離ウイルスを分析したところ、両変異株はほぼ同じ割合で分離されていることが示された。ただし、A/佐賀/128/97様変異株の中に、抗原性が同ウイルスから4倍程度に変異したA/横浜/8/98ウイルスが分離されていることに注目したい()。

両変異株を代表する数株の血球凝集素(Hemagglutinin:HA)遺伝子の塩基配列を決定し、Neighbor-Joining(N-J)法で進化系統樹を作成した。1989年以来のA香港型ウイルスの進化は単一の流れの中で進化し、A/佐賀/128/97より新しい分子枝に位置するA/シドニー/5/97は、さらにその先端の方向に位置するA/横浜/8/98と韓国の新しいH3N2変異種とは最新の進化方向を示していることが明らかとなった(図1)。

 2)Aソ連(H1N1)型ウイルスの抗原構造および分子進化:Aソ連型ウイルスはわずかしか分離されていないが、解析した6株のウイルスの抗原性は、ワクチンの中に含まれていたA/北京/262/95に類似していることが明らかとなった。これらのウイルスを代表するA/福岡/c-7/98ウイルスのHA遺伝子の進化方向は中国の2株とともに、新しい進化系統に位置していることが示された。そして、A/北京/262/95の進化学的位置もこれらの分離ウイルスの進化枝に近いことがわかった。

 3)B型ウイルスの抗原構造および分子進化:B型ウイルスの分離数は少なかったが、それらの抗原性は、B/ビクトリア/2/87様変異株(40株、73%)が主流を占めていた。さらに、B/三重/1/93に抗原的に近いB/ハルビン/4/94から8倍程度に変異したB/長野/2038/98株に抗原的に類似したウイルスも数株分離されていた。これらB型ウイルスの進化学的解析結果より、日本で流行していたB型ウイルスは大きく二つの系統に分かれて共存していることが明らかになった。この中で、第1系統のB/ビクトリア/2/87様の進化系統樹に位置する代表株は、B/滋賀/51/98株で、第2系統のB/山形/16/88様ウイルスの系統の中で、B/長野/2038/98は最も新しい進化方向を示していることが明らかとなった。

2.1998/99シーズンの流行インフルエンザウイルスの予測

昨シーズンのインフルエンザの流行規模の調査および流行ウイルスの解析を基礎にすると、今シーズンの予測はA香港型とB型ウイルスによる混合流行になる可能性があり、場合によってはこの中にAソ連型ウイルスが散発的に加わることも考えられる。

A香港型は、昨シーズンにA/武漢/359/95様とA/佐賀/128/97様ウイルスが共存し、ほぼ同じ割合で分離されていたことを考えると、今シーズンにおいてはA/佐賀/128/97ウイルスが主流になる可能性があり、これにA/佐賀/128/97から4倍程度変異したA/横浜/8/98様ウイルスが加わってくることも予想され、分子進化学的解析もこの可能性を支持しているように思える。

Aソ連型が登場してくる場合には、A/北京/262/95様の変異種が主流になる可能性がある。その根拠は、同ウイルスは昨シーズンに日本と中国のみで流行していたことが明かとなっているからである。また、ロシア、モンゴル、ヨーロッパ諸国、英国等で昨シーズン流行した、A/バイエルン/7/95様変異ウイルスの登場も否定きない。

B型ウイルスでは、B/ハルビン/07/94株ウイルスと、これから8倍程度に変異したウイルスも同時に流行する可能性も否定できず、これに進化学的に第1の系統に属するB/ビクトリア/2/87様変異株の今シーズンでの動向が注目される。この系列に入るウイルスは、昨シーズンに中国、台湾、日本およびシンガポールのアジア地域だけで分離されており、本ウイルスがB/ハルビン/07/94様株と共存して登場してくる可能性も残されている。この根拠は、日本で非流行期(1998年4月〜7月)にB/ビクトリア/2/87様変異株が分離されているという報告にある。

国立感染症研究所ウイルス第一部
呼吸器系ウイルス室 根路銘国昭

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