修学旅行で発生した集団食中毒事例からの小型球形ウイルスの検出−岡山県

小型球形ウイルス(以下SRSV)による下痢症の発生は、従来は冬季に多発するとされ、カキの生食との関連が指摘されてきた。しかし、1997(平成9)年5月の食品衛生法改正に伴い食中毒の原因の1つとして検索が開始されると、冬季以外にカキの生食とは無関係にSRSVが検出される事例が多数報告されるようになった。岡山県では、1998(平成10)年5月に中学校の修学旅行で発生した集団食中毒でSRSVが検出された事例を経験したので、その概要を報告する。

1998年5月15日〜5月17日に倉敷市内のF中学校の3年生7クラス252名(男136名、女116名)、教員14名(男8名、女6名)、合計266名がF県、N県、K県をまわる修学旅行に参加した。帰岡後の5月20日になって、F中学校から倉敷保健所に修学旅行参加者が食中毒様症状を呈している旨、通報があったため調査したところ、生徒 137名(男72名、女65名)、教員2名(男0名、女2名)、合計139名が、症状を訴えていることが明らかになった。

主な症状は、腹痛86名(62%)、頭痛68名(49%)、下痢58名(42%)、嘔気57名(41%)、発熱36名(26%)、嘔吐26名(19%)で、下痢および嘔吐の回数は、各々の症状を訴えた者の50〜70%が1日あたり1〜3回であったが、6〜7回であった者も少数あった。発熱の程度は、70%が37.0〜38.0℃台、最も高い者で39.0℃台であった。

表1に旅行中の食事の状況を、図1に有症者139名のうち発症時間の判明した102名についての日時別発生状況を示す。患者発生は18日(44名)と19日(31名)に集中しており、特に両日の午前中に多かった。

倉敷保健所で患者便108件の食中毒菌検索を実施したがすべて検出されなかったため、そのうちの11件について電子顕微鏡検索とSRSVのRT-PCR検査(平成9年5月30日付、衛食第156号の別添に示された方法に準拠)を行った。この結果、電子顕微鏡検索では全例陰性であったが、RT-PCRで11件中6件(発症日:18日4件、19日1件、不明1件)で330bpのバンドが認められ、安東らのプローブ(J.C.M.33, 64-71, 1995)によるサザンハイブリダイゼーションにより、genogroupIIに属するSRSVと確認された。

患者発生の最初のピークが帰岡後の18日(代休日)にあることから、原因は修学旅行中のいずれかの食事と考えられた。喫食調査に基づく統計的解析によれば、16日の昼食が最も疑われたが、同日の夕食および17日朝食の可能性も否定できなかった。しかし、旅行中F中学校が利用した施設についての関係自治体の調査では、他の利用者からの有症苦情はなかったとのことで、原因施設、原因食品、汚染経路は不明であった。

SRSVによる胃腸炎の潜伏時間は一般に細菌性食中毒の場合より長いことが多いが、摂取ウイルス量や個人差によってかなりの幅が見られる。1997年1月〜1998年9月に病原微生物検出情報の「ウイルス起因を疑う胃腸炎集団発生事例別情報」に報告された事例のうち、今回の事例に類似した例として、SRSV陽性非カキ関連事例で平均潜伏時間の記載されている事例39事例では、18〜50時間、平均35.8時間で、最短事例と最長事例では3倍近くの幅が見られた(オンライン還元データより抽出集計)。今回の事例では、こうした潜伏時間の幅に加えて、15日の夕食以降17日の夕食まで共通食品を摂っていたという修学旅行特有の条件が重なって、原因となった食事の絞り込みができず、原因究明の大きな障害となった。

おわりに、本稿をまとめるにあたりご協力いただいた倉敷保健所関係各位に深謝します。

岡山県環境保健センター
濱野雅子 葛谷光隆 藤井理津志 小倉 肇 森 忠繁

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