手足口病流行に伴う小児の死亡−台湾

台湾保健省は1998年4〜7月の間に定点サーベイランスから小児において約90,000の手足口病発生の報告を受けた。それらのうち約320例が髄膜炎、脳炎あるいは急性弛緩性麻痺の合併疑で入院し、少なくとも55例が死亡した。ここでは2死亡例の臨床経過と、死亡例について行われている疫学調査の中間結果をまとめて報告する。手足口病例は台湾全土から報告されているが、特に中部と北部からがほとんどである。

症例1:台北市に住む7歳女児で、6月5日から発熱と頭痛を訴え、翌日より嘔吐と耳鳴が出現した。8日に39.2℃の発熱、項部硬直、扁桃腫大、足底の水疱疹があり、無菌性髄膜炎の疑いで入院した。CTにて脳浮腫はなく、髄液細胞数は153/mm3であった。入院10時間後から血液の混じった痰、口周囲のチアノーゼ、多呼吸、粗いラ音が出現し、胸部レ線では両側性の濃い浸潤影がみられた。挿管、人工呼吸管理が行われたが低血圧、徐脈となり同日死亡した。剖検により急性脳脊髄炎、軽度の間質性肺炎と肺出血がみられたが、心筋炎の所見はなかった。炎症と壊死組織の部位の神経細胞では、免疫組織染色によりエンテロウイルス(EV)71が陽性であった。

症例2:台湾中部に住む7カ月の女児で、5月16日から発熱、20日には嘔吐、呼吸窮迫、痙攣が出現した。理学的所見では頻脈(心拍数200以上)、チアノーゼ、呻吟呼吸、両側性の粗いラ音、39℃の発熱がみられ、胸部レ線では両側肺門周囲の浸潤影がみられた。検査所見ではWBC 5,100、Hb 9.3、Plt 84,000、PT 29.5s(対照10.8)、APTT 45.5s(正常20〜34s)、髄液細胞数205/mm3であった。挿管、強心剤などによる循環管理が行われたが、入院約5時間後、徐脈と低血圧が出現し、21日死亡した。血液培養は陰性、ウイルス分離実施中で、剖検はなされなかった。

死亡55例は全例それまでは健康であり、発熱、皮疹、口腔潰瘍で発症している。発症後約2〜7日(中央値3日)で急激な心呼吸不全で入院しており、41例では入院後24時間以内に死亡している。55例中43例(78%)は3歳以下(中央値17カ月、3〜151カ月)で、32(58%)は男児、ほとんどが台湾中部(27例、49%)か北部(21例、38%)に住んでいた。受診のきっかけは17例(31%)が呼吸窮迫、14例(25%)が意識レベル変容で、13例(24%)は入院時昏睡であった。経過中全例で呼吸窮迫に対して挿管が必要となった。最後の死亡例は7月8日に入院している。EV71は症例1の神経組織で認められ、予備的研究では55例の14検体から分離されている。また1検体はPCRで陽性であった。

(CDC、MMWR、47、No.30、629、1998)

今月の表紙へ戻る


IASRのホームページに戻る
Return to the IASR HomePage(English)

iasr-proc@nih.go.jp

ホームへ戻る