単純ヘルペスウイルス2型による髄膜炎

急性感染後、感染性ウイルスは消失するが、細胞内に残ってウイルスの再発と鎮静化を繰り返す感染様式はヘルペスウイルスの特異な性状の一つである。

表1は、1994〜1997年の4年間の単純ヘルペスウイルス感染症の当衛生研究所における検査成績と患者の臨床診断名である。

ウイルス分離率は、6/16(38%)で比較的分離の容易なウイルスと考えられる。しかしながら、ヘルペス脳炎患者からのウイルス分離はすべて陰性であった。この原因としては、患者の発病後日数と検査材料に問題があると考えられる。ヘルペスウイルス感染者は、16人のうち10人(63%)が口内炎で、年齢的には1〜2歳の乳幼児が最も多く、ヘルペス脳炎の患者は14〜24歳に多く、年齢に大きな違いが認められた。以下には髄膜炎症例のウイルス分離状況について述べる。

ヘルペス髄膜炎の患者は、1997年8月4日誕生の新生児で、8月13日、38.0℃の発熱と水疱を伴った発疹により、ヘルペス髄膜炎と診断され、8月13日採取した髄液および水疱内容からHSV2を分離・同定した。このような結果から、この新生児の感染は母親からの産道感染が強く示唆された。

ウイルス分離にはVero細胞を使用し、CPEは初代培養7日後には認められた。しかしながら、顕著なCPEの進行にもかかわらず、継代後もウイルスの力価は10TCID/ml以上の増殖を示さないため、超高速遠心機にてウイルスを濃縮し、電子顕微鏡にて粒子の確認を行った。HSV1とHSV2の型識別は、モノクローナル抗体に蛍光標識したキット(デンカ生研キット)を用いて実施した。

表2は、発病後の水疱の発現と水庖内容からのウイルス分離の関係を示した成績である。HSV2は8月13日の発病時の髄液と水疱内容および8月14日の髄液から分離された。

8月中旬から、アシクロビルの経口投与を始めたところ、水疱の縮小と消失を認め、この間、8月22日〜10月23日の検査材料からはHSV2は分離できなかった。投与を始めて6カ月後アシクロビルの投与を中止したところ、再び水疱の形成が認められ、1998年2月21日、3月10日、4月20日および5月20日の水疱内容から再びHSV2が分離された。現在、6月4日に採取した水疱内容からのウイルス分離を実施中である。

サーベイランス事業が始まってから18年を経過しているが、ヘルペスウイルスだけでなくサイトメガロウイルスや先天性風疹症候群等からのウイルス分離を対象とした検査の依頼が日常化しており、医療機関が地方の衛生研究所に期待している一面を現しているように思われる。

三重県科学技術振興センター衛生研究所
櫻井悠郎 矢野拓弥 福田美和 川田一伸
杉山 明 松本 正
国立津病院小児科  豊田秀実

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