保育園で多発した腸管出血性大腸菌O26感染症−富山県

1998(平成10)年3月12日、血便を呈していた高岡市内A保育園の園児から分離された菌は腸管出血性大腸菌O26(VT1産生)と同定された。その2日後、血便、腎炎を呈していたB保育園の園児からも同じ大腸菌O26が分離された。このことより、保健所は他の保育園、医療機関に対して下痢患者に関する情報提供を依頼した。その結果、同市内で18日にはC、20日にはD、23日にはE、24日にはF、30日にはGの各保育園で同様の患者の発生が確認された。県では、そのつど患者発生保育園において、接触者の検便、残存食品の検査、疫学調査、衛生指導等を行った。これまで、以下の結果が得られている。

 1)発生状況:検便によって感染者(菌陽性者)の割合は園児の場合、A保育園で44/103(43%)、Bで19/122(16%)、Cで 11/56(20%)、Dで1/118(0.8%)、Eで13/129(10%)、Fで17/145(12%)、Gで8/93(9%)であることが判った。感染者はA、B、C、EおよびF保育園では、各クラスにみられたが、最後に届けのあったG保育園では、0〜2歳の1クラスだけに認められた。

一方、職員と家族における感染者の割合は全保育園職員で1/121(0.8%)、家族で18/705(2.5%)であった。感染者は全部で132名となった。

図1は感染者のうち、有症者について発症日を調べた結果を示す。内容は状況が似ているA、B、CとE、F、G保育園に分けて示したが、有症者はA、B、Cでは3月5〜14日に多い傾向がみられ、E、F、Gでは長期にまたがり、明確なピークはみられなかった。

 2)症状、治療:感染者 132名のうち、有症者は87名(66%)で、有症者87名の内訳は下痢76(うち軟便37)、血便4、腹痛29、嘔気嘔吐8、発熱12で、多くは軟便程度の軽い下痢であった。

感染者132名は医療機関でFOMまたはNFLXの投与を受けた。その後、いったん陰性化しながら、後日の検便で8名が再排菌した。

 3)糞便中の菌数等:検便はマッコンキー培地を使用し、コロニーを5〜6個調べる方法で行われてきた。他の方法との感度を比較するため、二次検便では、88検体についてCT加マッコンキー、ラムノースマッコンキー(感染症誌、72巻、臨時増刊号、 139ページ)、マッコンキー、レインボーの4分離培地を併用した。その結果、菌検出数は順に14/88、13/88、11/88、11/88と、CT加マッコンキーで最も検出率が高かった。一方、菌陽性の便14検体について、市販試薬Novapathと Orthoによる糞便中の毒素検出を行うと、前者で4、後者で2検体が陽性となった。また、糞便1g当たり3×106 〜6×108の原因菌を排菌する感染者が6名(うち毒素陽性3名)みられ、いずれも無症状であった。

 4)原因食品検査:保育園A、B、C、E、Fに保存してあった2月26日〜3月17日の食材と検食 851品目について、まずEC培地で一夜培養(一次増菌)し、分離培地にマッコンキーとラムノースマッコンキー培地を用いて検査を行った。次に選定した食品について、二次増菌し、ビーズ法(北海道衛研方式)、酸処理法(日本細菌学雑誌、53巻、 151ページ)、PCR 法で調べた。他に抗生物質加EC培地、BGLB培地、44.5℃培養、ビーズ法、酸処理を組み合わせた方法も試みた。高岡市の保育園では、市が作成したメニューで給食を実施している。しかし、その食材等納入業者は保育園によって異なっており、調理は各保育園で行われている。疫学調査の結果、各保育園に共通の食品が15品目あった。これらについては種々の方法で検査したが、原因菌は検出されなかった。また、食品納入業者の検便では、保菌者はみつからなかった。

 5)原因菌の性状:A〜G保育園の感染者から分離された菌株はすべてO26:H11で、遺伝子eaeA(+)、VT1(+)、VT2(−)であった。また、XbaI、NotI、SpeI、SfiI処理後の染色体DNAのパルスフィールドゲル電気泳動像は一致し、 103種の薬剤感受性も一致した。

全保育園の感染者分離菌のPFGE像の一致は原因菌が共通であることを示している。疫学調査結果をみると、A、B、CとE、F、Gでは、感染者発生の日別分布に差がみられる。この差の原因については、大きく(1)暴露日は同じであるが、E、F保育園児はA、B、C保育園児に比し暴露菌量が少なく接触感染が多かった。(2)E、Fでは連続暴露があった。(3)その他の考え方ができる。いずれが正しいかは明らかでない。いずれにしても、今回の発生が長期にわたった要因としては、園児間では接触が多いこと、菌の伝染性は強いこと、糞便1g当たり108の原因菌を排出しながら無症状の園児が少なからず認められること、また、多くの感染者は軟便程度の下痢で軽快していること等から、園内において接触感染が多かったことがあると推測される。

高岡保健所
名越雅高 高田正耕 稲野 仁
富山県衛生研究所
刑部陽宅 磯部順子 平田清久

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