循環式浴槽におけるレジオネラ分布調査−神奈川県

家庭用および業務用の循環式浴槽についてレジオネラの分布状況の調査を行ったのでその概要を報告する。なお本調査では自由生活性アメーバの生息状況も調べたが、その結果は後日別稿で報告する。

神奈川県内の循環式浴槽の浴槽水32検体を検体とした。その内訳は旅館等13検体、一般家庭11検体およびサウナ等8検体であった。採水は1997年2月9日〜13日に行った。

各検体(1 l)をメンブラン・フィルター(ポア・サイズ:0.45μm)でろ過し、その後フィルターを50mlの遠心管に移し、検体10mlを加え、洗い出した。加熱処理(50℃、20分)後10倍段階希釈を行い、 WYOα培地に塗抹し、36℃、7日間培養を行い、生化学的性状とPCRにより同定を行った。同時に各検体の一般細菌数についても調べた。

32検体中レジオネラの検出された検体は21検体(66%)であり、その菌数は100ml当たり1.6×101〜2.5×104個であった。菌数は101オーダーが10検体(31%)、102オーダーが4検体(13%)、103オーダーが5検体(16%)、104オーダーが2検体(6.2%)という内訳であった。浴槽水についてレジオネラの菌数と感染の危険性の関係は明らかではないが、「レジオネラ症防止指針:厚生省生活衛生局企画課監修、平成6年3月」に記載されている冷却塔水での「レジオネラの菌数と対策」を当てはめると104オーダーは「要注意範囲」とされ、必要に応じて殺菌等を行わなければならない菌数である。

検出されたレジオネラ38株について調べたところ、菌種はすべてL.pneumophilaであった。その血清群は1群が3検体(7.9%)、2群が1検体(2.6%)、3群が7検体(18%)、5群が9検体(24%)、6群が6検体(16%)、また群別不能が12検体(32%)よりそれぞれ検出された。

一般細菌数については、 100ml当たり3.9×103〜2.5×107個であり、104オーダーが12検体(38%)で最も多かった。また検出されないものが7検体(22%)あった。

循環式浴槽は浴槽水を保温、循環、浄化を行うことで、浴槽水の交換および浴槽の洗浄を長期間行わずに使用できるものである。物理的ろ過により大きなゴミを除去し、その後微生物浄化により有機物を分解する浄化方法を使用するなどして浄化を行い、さらにオゾンや紫外線などを発する殺菌装置を組み合わせたり、塩素などの殺菌剤を注入することによって殺菌を行っている。今回調査した浴槽も上記の方法を組み合わせて浴槽水の浄化を行っていた。

施設別にレジオネラの検出状況をみてみると、旅館等が13検体中10検体(77%)、一般家庭が11検体中9検体(82%)、サウナ等が8検体中2検体(25%)であった。検出されたレジオネラの菌数の平均は一般家庭が 7.9×102個(0〜2.5×104個)、旅館等が 1.8×102個(0〜3.9×103個)、サウナ等が1.4×101個(0〜1.9×101個)であった。

サウナ等では塩素を注入する方法が用いられている。この方法がレジオネラを含む細菌の浄化には有効であると考えられる。しかしながら、浴槽水の浄化に微生物浄化を利用しているものが多数あるため単純にこの方法を勧めることはできない。また通常塩素注入を行う施設でも残留塩素が確認されないものではレジオネラが検出された。一般家庭および旅館等で使用されている物理的ろ過後、生物浄化を行う機器では、その後の殺菌設備の有無にかかわらずほとんどの検体よりレジオネラが検出された。

これまでに温泉やサウナでの入浴が関連したレジオネラ肺炎による死亡例も報告されている。今回の調査では循環式浴槽に限ってレジオネラの分布を調べ、高率に検出された。さらに詳細な調査を実施するとともに、レジオネラの増殖抑制のための管理や殺菌・消毒方法の確立、さらに監視態勢などの防止対策の策定ならびにレジオネラの生態や感染経路、病態、感染予防法などに関する正しい知識の普及が肝要である。

神奈川県衛生研究所細菌病理部
佐多 辰  黒木俊郎
国立感染症研究所寄生動物部
八木田健司 遠藤卓郎

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