パルボウイルスB19の母子感染、国内の状況

パルボウイルス(PVB19)は1980年から、ヒトの病原ウイルスであることがわかってきた。その臨床像は多彩で、1984年には胎児の死産や、胎児水腫が起こることが見いだされた。ウイルス検出、抗体測定の技術が最近徐々に整い、PVB19感染の全貌が明らかになりつつある。以下に、国内の最近の知見を記す。

1.胎内感染の経路:母体のウイルス血症により、そのウイルスが胎児側に感染する。胎児といわず胎児「側」という意味は、PVB19の標的細胞である赤芽球系細胞の造血が、胎芽そのものではなく、受精後約19日に卵黄嚢で始まり、そこに感染するからである。受精卵に感染する報告はない。母体のウイルス血症が起これば、受精後2週ごろ以降から、妊娠の最後まで、胎児感染が起こる。母体の感染時期は不顕性感染が多く、前方視的観察でない限り、多くは不明である。

2.胎児感染が起こる妊娠週数:感染時期が推定できる伝染性紅斑を発病した13例の母体と、発病した長男と接触しながら不顕性であった1例の妊婦で、胎児の経過を観察した。(1)妊娠3週前の母体感染例から、在胎39週に感染の証拠を持たない成熟女児が生まれた。(2)長男が妊娠3週に伝染性紅斑を発病した母親の胎児は、妊娠23週に胎児水腫を発現、28週に死亡した。(3)他の12母体は4〜32週に発病しているが、うち1例が自然流産、2例が胎児水腫で死亡した。妊娠4週に発病した母体の児は36週に1,998gで出生した。生死にかかわらず、すべての児にゲノムDNAを検出した。

妊娠3週ころの母体感染から児に感染が起こり、その後妊娠全期間にわたって、感染が成立すると考えられる。受精前の母体の感染が、胎児に移行したという証拠は得られていない。

3.病態生理:まずPVB19はその標的細胞であるP抗原保有細胞、特に赤芽球前駆細胞(BFU-E,CFU-E)に感染する。感染した細胞は破壊され、アポトーシスを起こすものもあり、貧血の原因となる。これが胎児感染のベースとなる。急激な高度の貧血では流産を起こす。児のHbは 2g/dlになっても生存していることもある。持続感染で貧血が続くと、発育が遅れ、低出生体重児として生まれる。

4.感染胎児の病像、特に奇形の有無:妊娠の中期には肝臓で造血が盛んなため、肝障害のほか、レセプターを持つ心筋の障害も起こり、貧血に加えて胎児水腫の発現を助長する。欧米の胎児水腫の発生は妊娠20週までが多いが、国内では20週過ぎの方が多い。感染から胎児水腫の発現まで6、7週から20週以上もかかる。胎児水腫が胎内で一過性に起こり、自然治癒するものから、早々に死亡するものまで、さまざまである。水腫なく胎内死亡する事もある。奇形児の報告はあるが、すべて死亡後にみつかり、奇形を持って生まれ育った例はない。

5.感染胎児の予後:前記13例の中で4例(30%)の胎児が死亡している。

6.発生頻度:1987・88年と1992年の伝染性紅斑の流行年に、胎児水腫に限れば、福岡市では出生1,000対2前後である。多くは死亡している。

7.診断法:ゲノムDNAのPCRによる検出、昨年製造許可を得たバキュロウイルス組換え抗原による抗体測定が、わが国では最も確実である。児の生存中、羊水のDNA検索は有用である。検査法の進歩により、PVB19の母子感染が、過去の報告ほど稀でなくなった。

母子感染といえばTORCH症候群があり、出生児はそれぞれの病原体にIgM抗体陽性である。胎児の感染確実なPVB19感染母体ではIgM抗体陽性は50%、なかにはIgG、IgMともに陰性の母体がある。児のIgM抗体は陰性の場合が多いので、PVB19とTORCH症候群の混同は避けられる。

九州大学医療技術短期大学部 布上 董

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