最近経験した新生児のコクサッキーウイルスB群感染症−愛知県

1997年夏、当科に入院した新生児・小児の便や咽頭ぬぐい液からコクサッキーウイルスB(CB)1型が13例、CB2が9例分離同定された。CB1が分離されたのは、便から13例全例、咽頭ぬぐい液から7例中3例で、検出された月は1997年7月に8例、8月に5例だった。臨床診断は、不明熱性疾患が3例(日齢19の双胎児2例と日齢23)、無菌性髄膜炎が2例(日齢10と3歳)、日齢12の発疹症、3歳の急性上気道炎、1歳の急性肺炎、6歳の急性虫垂炎、胸腺腫大の精査目的で入院した8カ月児が各1例、無症状3例だった。CB2が分離されたのは、便から9例全例で、咽頭ぬぐい液から7例中3例で、検出された月は1997年5月と7月に各1例、8月に7例だった。臨床診断は、不明熱性疾患が2例(日齢2と3の双胎児例)、上気道感染症が4例(1歳、3歳、4歳、12歳)、1カ月齢児の無菌性髄膜炎、4歳の急性肺炎、3歳の急性胃腸炎が各1例だった。

エンテロウイルスは小児の上気道炎や手足口病、ヘルパンギーナなど日常よく遭遇する夏風邪の原因ウイルスで、ときに無菌性髄膜炎の原因となる。また、新生児においては感染症の原因として最も頻度の高いウイルスであるが、そのほとんどは単に発熱、発疹、下痢などといった比較的症状の軽いものである。しかしながら、一部には無菌性髄膜炎、髄膜脳炎、心筋炎や敗血症様の全身感染症から多臓器不全を呈して死に至るものもあり、その臨床像は幅広く多彩である。特に今回分離されたCBウイルスは新生児に重症感染症として心筋炎や髄膜脳炎などをおこすウイルスとして有名である。

われわれはこれまでに、流行の稀なエコー2および33型による施設内流行を経験している。発端者は分娩の前後に発熱のエピソードを有した母体から出生し、発症した新生児と推定された。エンテロウイルスの簡便で迅速な診断法がいまだ開発されておらず、健康保険によるウイルス分離・同定などの費用請求も認められていないため、その診断が可能な施設は限定されてしまい、エンテロウイルス感染症の診断や不顕性感染者の早期診断は極めて困難なのが現状である。

感染症の児がしばしば入院する未熟児センターのような狭い閉鎖空間では、エンテロウイルスの伝播が時時起きているのではないかと考え、今回、当院未熟児センター入院中の児の便のウイルス分離を毎週1回継続して行ってみたところ、7月下旬に集中して先に述べたCB1が6例から分離同定された。エンテロウイルスは便や尿に排泄されることが知られており、これらで汚染されたおむつが感染源となりうる。新生児や未熟児のケアーの主要な仕事のひとつがおむつの交換であることから看護者の手を介しての接触感染が主要な感染ルートと考えられる。

下水道の普及など衛生環境が整備されるに伴い、エンテロウイルスの流行そのものが少なくなり、抗体保有率も低下してきているのではないかと言われている。母親が免疫IgGを持たなくなれば、新生児への移行抗体も無く、新生児が感染の危機にさらされる可能性も生ずる。従って院内感染の予防が今後さらに重要であり、その根幹として常日頃から手洗いの励行や感染源の除去および感染経路の遮断など、医療スタッフ全員に徹底した感染予防への配慮が要求される。また、感染者や不顕性感染者を早期に発見して隔離などの感染対策が即座に実行できるよう、簡便で迅速な診断法の開発を切に望む。

豊橋市民病院小児科 大林幹尚
愛知県衛生研究所ウイルス部
都築秀明 山下照夫 栄 賢司 鈴木康元

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