最近のSRSV流行事例における効果的なRT-PCR法の検討−秋田県

冬季に流行し、時として食中毒の原因ともなる小型球形ウイルス(SRSV)の検査法としては多方面から研究が進められてきている。一方、1997(平成9)年5月の食品衛生法改正によりウイルスが食中毒原因物質に指定されたものの、残念なことに細菌検査の延長と見なされている場合が多い。そのため、行政依頼検査として直採便などの電顕観察が不可能な検体が持ち込まれるケースも増えてきている。採便体制の整備については別の機会に論ずるが、行政依頼である以上検査を担当する現場としては最善を尽くさなければならないため、必然的にRT-PCR法を多用することになる。この場合、プライマーの選定に検出の成否がかかるわけであるが、わが国で現在最も普及していると考えられる35/36と81/82によるnested PCRは、必ずしも最近の流行株に適しているとは言い切れない。我々は1995年11月の流行において、電顕で大量の粒子が観察されたにもかかわらず、35/36系のPCRに反応しない株(由利株)をクローニングした。この株の塩基配列をもとにプライマーを合成して検査に用いたところ、当該流行期のみならず1996年、1997年のウイルス性胃腸炎の検体からも効率良くSRSVを検出できたので、その有用性について報告する。

Yuri系PCRは1st.プライマーとして、Yuri52F、Yuri52R、MR3、MR4の4種を混合して用いる。Yuri52F/Rは由利株由来、MR3/4はトロント株由来であるが混合使用により検出効率が向上する。それぞれの配列は、Yuri52F:5'CAATCAGAGTTGGCATGAA3'、Yuri52R:5'TGTTGGGATCAGCCCGTA3'、MR3:5'CCGTCAGAGTGGGTATGAA3'、MR4:5'AGTGGGTTTGAGGCCGTA3'である(増幅サイズ 470bp)。また、nested PCRを行う場合には2nd.プライマーとしてYuri22F (5'ATGAATGAGGATGGACCCAT3')とYuri22R (5'CATCATCCCCGTAGAAAGAG3')を用いる(増幅サイズ 373bp)。PCRの温度条件は、1st.2nd.とも "pre-amplification"として、94℃1分−45℃2分−60℃4分の5サイクルを最初に行い、引き続いて1st.PCRでは94℃1分−50℃1分20秒−72℃1分を、2nd. PCRでは94℃1分−55℃1分20秒−72℃1分をそれぞれ30サイクル行う。本法は、型別よりもむしろ事件発生時の早期スクリーニングを主目的としているため、プライマー配列に多少のミスマッチがあっても対応できるように条件を調整してある。また、Yuri系 PCRに限ったことではないが、検体によっては多くのエキストラバンドが生じて判定困難なケースがある。これは RNA抽出時に DNA(腸管細胞や細菌由来)が混入してくることが原因であり、同様にカキ中腸腺の検査でも問題になる。当所で解決法を検討したところ、 RNAの逆転写反応直前にDNase I処理を行うことにより、エキストラバンドをほぼ完全に除去することができ、結果として検出効率の向上につながることがわかった。方法は、20μlの反応系に対して1unitのDNase Iと10unitsのRNase inhibitor を加えて37℃で10分反応させた後、65℃で5分加熱してから通常の逆転写反応を行う。DNase IはRNase freeの検定済み製品を使用し、添加量と反応時間は厳守する必要がある。

当所でPCRによるSRSVの検査を行うに当たっては、1検体につきYuri系、35/36系、Chiba系の3系統を同時に行い、どれかに反応したものを陽性と判定している。Yuri系と35/36系はnested PCR、Chiba系は1st.PCRでの判定である。こうした方法で1995年11月〜1997年5月までに176検体を検査し、ほぼ半数の84検体からSRSVを検出している。陽性となった84検体について、どの系統のPCRで検出されたかを示す割合(寄与率)はのとおりである。複数の系統で同時に検出された検体も多いが、陽性例の80%以上がYuri系でカバーされていることがわかる。特筆すべきは一つの系統でのみ検出された検体の割合(絶対的寄与率)で、Yuri系が45%と圧倒的に高いことである。これらは、他のプライマーを用いた検査では見逃される結果になっていたことは明白である。PCR法の性質上、単一のプライマー系ですべてのSRSVを検出することは困難であり、複数の系統でもって総合判定するのが現時点における最善策である。その中でもYuri系PCRの寄与率は極めて高く、最近の流行事例に対する第一選択として適していると考えられた。

秋田県衛生科学研究所
斎藤博之 斉藤志保子 原田誠三郎
佐藤宏康 宮島嘉道

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