The Topic of This Month Vol.18 No.12(No.214)


インフルエンザ 1996/97

昨シーズン(1996/97)のインフルエンザについて、全国約 2,500の小児科・内科定点から報告されたインフルエンザ様患者の発生状況、全国約60の地方衛生研究所などから国立感染症研究所感染症情報センター(IDSC)に報告されたインフルエンザウイルス分離数およびインフルエンザ重症合併症例などについてまとめた。

感染症サーベイランス情報による1994/95、1995/96、1996/97の3シーズンのインフルエンザ様疾患患者の発生状況を図1に示した。昨シーズンは1996年第49週(12/1〜7)から患者の報告が増えはじめ、第52週(12/22〜28)にかけてその数は急増し、本症が1987年にサーベイランスの対象疾病となって以来、この時期としては最多の患者発生となったが、大流行につながることはなく、1997年第4週(1/19〜25)にピークとなり、第9週(2/23〜3/1)にかけて減少傾向となった。しかし、昨シーズンは例年と異なり3〜4月にも患者発生が横ばい状態で続いた後、緩やかに減少した。

分離されたインフルエンザウイルスについて、図1と同様3シーズンの週別報告数をまとめたものが図2、過去10シーズンの型別報告数をまとめたものが表1である。なおIDSCへのウイルス分離報告には感染症サーベイランス定点医療機関で採取された検体以外に、幼稚園・小中学校などにおける集団発生時の調査などで採取した検体からの分離成績も含まれている。図2表1からわかるように、1994/95シーズンは前半はA香港(H3N2)型、後半はB型の流行で、これに少数のAソ連(H1N1)型が含まれていた。1995/96シーズンはA(H1N1)型が流行の中心で、A(H3N2)型がこれに少数かぶさるようになり後半まで残り、B型の分離は少数例にとどまった。1996/97シーズンの前半はA(H3N2)型、後半はB型が主流の流行で、B型は7月まで続けて分離された。昨シーズンのインフルエンザウイルス分離報告数は合計 5,861で過去最高の報告数であったが、A(H1N1)型は全く分離されなかった。2月に大阪で分離されたB型はB/Victoria/2/87様変異株で(本月報Vol.18、No.5参照)、4〜6月には岡山、広島(本月報Vol.18、No.6参照)、京都市(本月報Vol.18、No.7参照)からも同様のB型変異株分離の報告があった。なおB/Victoria/2/87様変異株は1995/96シーズンに中国南部で分離されていた。

1997/98シーズン用のわが国のワクチン株は、これらの結果を考慮に入れた上で、A/北京/ 262/95(H1N1)、A/武漢/ 359/95(H3N2)、B/三重/1/93、B/広東/05/94(B/Victoria/2/87類似株)の4株を用いることになった(本月報Vol.18、 No.10参照)。

昨シーズンのウイルス分離例について年齢別の分布をみてみると、A(H3N2)型分離例の年齢は0〜2歳と9〜11歳の二つのピークを示した(図3)。1996年12月以前には年長者からの分離が多く、1997年1月以降は年少者からの分離が多かった。B型分離例については6〜8歳をピークに学童が多い傾向がみられた。

インフルエンザの重篤な合併症として中枢神経系・循環器系障害などがあり、ウイルスが分離同定されたこれらの重症合併例について、IDSCへの報告が近年増加している(本月報Vol.17、 No.11参照)。昨シーズンには、脳症10、脳炎7例、心筋炎・心膜炎2例、ライ症候群1例が報告され、この中には死亡1例、脳死状態の1例(本月報Vol.18、No.6参照)が含まれている。ウイルスの検出方法として、RT-PCRによって髄液中のインフルエンザウイルス遺伝子を検出した1例もこの報告の中に含まれている。なおこれらの重症例は年齢不明の1例を除いてすべて0〜12歳の小児であり、ことに2歳以下の乳幼児が約半数を占めていた。昨シーズンIDSCに報告された重篤な合併例について、表2にまとめた。

高齢者ではインフルエンザは重症化しやすく、肺炎などを合併して死に至る場合もあり、流行期には疫学的に超過死亡*現象があることが知られている。わが国ではこれまで高齢者のインフルエンザに関する調査が少なかったが、昨シーズンには岡山、広島市、東京の特別養護老人ホームにおけるインフルエンザの流行・集団発生例がIASRに報告された(本月報Vol.18、No.5No.6No.10参照)。欧米では65歳以上の高齢者にはインフルエンザシーズン前にワクチンの接種を積極的に勧めている(本号16ペ−ジ、MMWR Vol.46, RR-9参照)。わが国でも高齢者の任意接種は可能であるが、その効果と安全性に関してさらに詳細な検討がなされようとしている。

1997年5月に香港で肺炎およびライ症候群を呈して死亡した3歳児の咽頭よりインフルエンザA(H5N1)型ウイルスが分離されたとの報告がある。H5N1はトリのインフルエンザウイルスとして知られているが、ヒトから分離されたのは初めてである。日本を含む国際的な協力調査の結果、患者周辺で同型のウイルスの人→人への感染は認められなかった(本月報Vol.18、No.9参照)。現在世界的に流行中のH3N2は30年間、H1N1は20年間にわたって続いていることに加えて、トリやブタのインフルエンザウイルスとヒトのインフルエンザウイルスの遺伝子が交雑すること、トリのインフルエンザウイルスが直接ヒトに侵入する可能性もあることなどより、H5N1のヒトからの分離は世界中から注目された。わが国では新型インフルエンザの出現とその流行に備えるため厚生省内に新型インフルエンザ対策検討会が設置され、サーベイランスの充実とワクチン接種を対策の基本とするガイドラインがこのほど提出された(本号3ペ−ジ参照)。

今シーズンのウイルス分離速報:12月8日現在、日本での分離報告はまだない。香港では風邪症状の幼児から(11月8日採取)2株目のA(H5N1)型ウイルスが分離された。香港行政区政府はその後54歳男性(死亡)、13歳女子(重体)からのH5N1分離を発表した。

超過死亡:インフルエンザの流行があった場合に、インフルエンザの流行がなかったと想定した場合に較べての死亡数の増加。


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