海外旅行者のCampylobacter coliによる集団下痢症−栃木県

1997年9月に、海外旅行者のCampylobacter coliによる集団下痢症が2件発生した。 事例1:9月1日に医療機関から県北保健所に、食中毒様症状の中学生3名を診察した旨、届出があった。調査の結果、8月26日〜29日まで、U町の中学校の生徒58名および引率の教員等9名の合計67名が、中国ハルビン市および北京への海外研修旅行を実施しており、患者52名は、この旅行の参加者であった(発症率78%)。

患者は、図1のように29日〜30日をピークに発症し、その症状は1日数回〜20回にもおよぶ下痢92%、腹痛89%、頭痛39%、発熱37%等で、下痢は水様性で血便は認められなかった(表1)。

9月2日から患者15名の検便を開始し、常法により培養後、グラム染色性・オキシダーゼ・ナリジクス酸感受性・セファロシン感受性・馬尿酸塩加水分解等の試験を実施し、5名からC.coliを検出した。

調査により、海外研修旅行以前は夏休み期間中のため給食等の共通食品はなく、8月26日の成田発北京行きC航空926 便の機内食については、千葉県の調査により機内食製造業者等に苦情はないことが確認された。さらに、初発患者は北京滞在中の8月29日に発症していることから、帰路および帰国後の食品が原因である可能性はないと考えられる。以上のことから、原因食品は中国滞在中の食事が強く示唆されたが、その食事はバイキング方式(円卓)であり、詳細なメニューおよび喫食状況は把握できず、原因食品の特定には至らなかった。

事例2:9月3日医療機関から県南保健所に、団体で韓国に出かけ下痢・発熱の食中毒様症状を呈している患者を診察し、他にも有症者がいるらしいと通報があった。

調査の結果、8月28日〜9月1日までO市内H短期大学バスケットボール部員18名が韓国遠征に行き、うち5名が発症した(発症率28%)。患者は1日〜2日にかけて発症し、その症状は下痢80%、腹痛 100%、発熱40%等で、下痢は水様性で血便は認められなかった。

9月3日から患者5名の検便を開始し、事例1と同様の試験の結果、全員からC.coliを検出した。

調査による患者の共通点は、短期大学バスケットボール部に所属し韓国遠征に行っていること、および短期大学の女子寮に住んでいることである。女子寮には、食事の提供はなく寮生は自炊または外食をしている。炊事場は1カ所で市の上水道を使用し調査時の遊離残留塩素濃度は、0.3ppmであった。寮には20名が居住しているが、5名の患者以外に同様の症状を呈した者はいなかった。8月25日〜9月2日までの患者の喫食調査で、共通していたのは8月28日昼食〜9月1日昼食までのバスケットボール部韓国遠征時の食事だけであった。なお、8月28日昼食および9月1日昼食は、N航空 951便および 952便の機内食である。8月28日昼食については、千葉県から同便の摂食者に同様の症状の者はいなかったとの報告を得ている。9月1日の昼食については、初発の患者の発症時間から原因食品とは考えにくい。

以上のことから、本件は韓国遠征中の飲食により発生したものと推定された。患者らが、韓国内で食べた食事の内容は、焼き肉等肉料理(肉の種類は不明)が目立つが、原因施設が国内ではないため発生要因は不明である。

本県では、海外旅行者下痢症の患者に対して伝染病菌を中心に検索しているが、今回は通報時に集団発生が疑われたので、食中毒事件として調査を実施し、対象者から多くの情報が得られた。

しかし、発生要因の場が国外であると推測され、調査の及ばない範囲があったので原因および感染経路は特定できなかった。

海外旅行者下痢症の起因菌として、Campylobacterの検出される頻度は高い。また、その場合C.coliの占める割合は、国内での検出状況より高い傾向があると報告されている。

今後は、海外旅行者下痢症における起因菌の動向に合わせた検査対応が必要と考えられる。

最後に、資料を提供していただいた県北保健所、県南保健所、環境衛生課の関係者の方に感謝いたします。

栃木県保健環境センター微生物部
岡本その子 長 則夫 古宮栄三

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