肺炎マイコプラズマの家族内感染−神奈川県

異型肺炎をはじめとした肺炎マイコプラズマ(Mycoplasma pneumoniae、以下M.pn)感染症の流行期には家族内感染が多発すると言われている。しかし、わが国におけるその実態および流行との関わり合いについては不明な点が少なくない。今回、神奈川県の結核・感染症サーベイランスにおいて、小規模ながらM.pnの家族内感染について調べる機会を得たので以下に略述する。

1983〜1996年に、神奈川県の結核・感染症サーベイランスの定点医療機関において異型肺炎と臨床診断された患者のうち、M.pn感染が証明され、家族内感染に関わると判断された初発患者45例および続発患者76例を対象とした。M.pn感染は、患者咽頭からのM.pn培養陽性あるいは間接粒子凝集血清抗体の有意上昇をもって確定した。

表1M.pnの家族内感染に関わる患者の年齢分布を示した。初発者45例中、7〜9歳が18例(40%)と最も多く、次に4〜6歳の13例で両者合わせて31例(69%)となり、これらの年齢層が家族内への主な感染持ち込み者となっている可能性が示唆された。一方、続発者76例中、4〜6歳が25例(33%)と最も多かったが、乳幼児でも12例(16%)みられ、家族内感染により感染年齢層が拡大する傾向がみられた。

家族内における初発者発病から続発者発病までの間隔を調べると、表2に示すように7日以内〜28日とかなり差があり、15〜21日が最も多く(43例中21例)、平均14.2日であった。この平均日数はM.pn感染症の潜伏期間に近いものと考えられるが、インフルエンザのような伝染力の強い呼吸器感染症(1〜2日)と比べ長い潜伏期間を要するようである。また、続発者2名以上の家族内感染が10例確認できたが、複数名の続発者が一斉に発病したのは2例であった。従って、M.pnの家族内感染は一般的には緩やかに進むものと考えられるが、各家族における様々な要因、例えば生活様式、家族構成員の抵抗性あるいはM.pnの感染量等により続発者発病までの日数には大きな差が生ずるものと推察される。

M.pnの家族内感染が多発する時期は8月〜10月で、8月に急増する傾向がみられた。これは感染年齢層である学齢児童の夏期休暇と関係があるように思われるが、M.pn感染症の多発時期に先駆けて家族内感染が増加しているように思われて興味深い。

以上のように、M.pnの家族内感染を追究することはM.pn感染症流行の疫学的解明に重要な意味を持つものと思われる。しかし、今回把握できたのは神奈川県内で発生したうちのごく一部にすぎず、家族内感染についての充分な調査ができたとは言えない。従って、今後より充実した調査が必要と思われる。

神奈川県衛生研究所細菌病理部 岡崎則男

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