弁当が原因と考えられるA群レンサ球菌の集団感染−福岡市

1997(平成9)年5月15日「福岡市で開催された国際会議の警備に従事した福岡県警警察官の間で喉の痛みを主症状とする上気道炎が発生している」との情報が保健所へ寄せられ、同日警察官を診察した耳鼻咽喉科医院医師から簡易検査でA群レンサ球菌陽性である旨連絡があった。まれにみる大規模な溶血レンサ球菌の集団感染が疑われたことから、福岡県警・福岡県・福岡市による上気道感染症対策連絡会議が設置され、状況の把握、原因の究明等が図られた。

福岡県警の調査によると、1997年5月9日〜11日に 2,676人が同会議の警備に従事し、5月11日頃から 943人が喉の痛み・発熱・体がだるい等症状を訴えていた。このうち 731人が医療機関を受診し、 119人が溶連菌感染症と診断され、44人(家族1人を含む)の咽頭ぬぐい液からA群レンサ球菌が検出された。その他の受診者の診断は、かぜ・インフルエンザ・扁桃炎等であった。ASKおよびASOについて196人のペア血清を調べたところ77人に抗体価の上昇が見られた。また、当初インフルエンザも疑われたが、20人のインフルエンザ抗体価検査ではいずれも変化がなかった。

有症者の共通食として県警本部が発注した弁当があったことから甲・乙両社が製造した弁当の調査を実施した。弁当は甲社が 3,877食、乙社が 3,815食を5月9日〜11日に7回に分けて提供した。甲社の5月9・10・11日の保存食(弁当に詰める前のおかず類)と10日警察官へ夕食として提供した弁当および乙社の9・10・11日の保存食について溶レン菌の検索を行った。検査は滅菌生理食塩水で10倍に希釈し、羊血液寒天に塗抹後35℃48時間微好気培養、β溶血を示したコロニーを釣菌し、群型別・T型別およびバイテック(ビオメリュー社)により生化学性状を調べ菌種の同定を実施した。検査の結果、甲社5月10日の保存食中の「だし巻き卵」および同日製造の弁当中の「だし巻き卵・サケ・牛肉の複合サンプル」よりA群 T-B3264型レンサ球菌が検出された。だし巻き卵の菌量は、A群レンサ球菌 5.9×103個/g、生菌数 1.9×105個/gであった。他のすべての検体については、陰性を確認した。

医療機関において患者咽頭ぬぐい液から分離された菌株45株(重複して受診している患者がいるため、警察官43人分44株および家族1人分1株)についてもT型別および菌種の同定を実施したところ、すべて食品由来株と一致した。

さらに、食品由来株2株と患者由来株10株を国立感染症研究所へ送付しDNA解析を依頼した結果、制限酵素SmaIおよびSfiIによる消化後のパルスフィールド電気泳動法による泳動パターンはすべて一致し、発赤毒素(spe)B遺伝子を有するということがPCR法で確認された。

有症者943人の摂食状況は、甲社の弁当のみ摂食648人、甲・乙両社の弁当摂食143人、乙社の弁当のみ134人、不明18人であったが、溶連菌感染症と診断された者およびA群レンサ球菌が分離された者は、甲社の弁当を摂食していた。

以上より、上気道感染症対策連絡会議において、「今回の事例は甲社製造の弁当に起因するA群レンサ球菌感染症であると考えられる。ただし、有症者全員が溶連菌感染症とは言えない。」と結論づけられた。

福岡市保健環境研究所
池田嘉子 椿本 亮 財津修一
石北隆一 村田建夫 大田耿三
福岡市博多保健所
中原貞弘 谷川之弥 辻 紀子
福岡県警察本部警務部 山本登士
福岡県保健対策課 財津裕一

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