仕出し弁当を原因とするYersinia enterocoliticaによる食中毒事例−徳島県

1997年(平成9年)6月27日、徳島市内のA病院の医師から同病院の職員23名の食中毒患者届が徳島保健所に提出された。患者の発症状況から仕出し弁当が共通食であることが疑われ、それを納入している同市内の業者(協同組合)を調査したところ、同組合が仕出し弁当を納入しているB病院付属看護学校学生寮とC病院付属看護学校学生寮にも、食中毒様症状を呈している患者がいることが判明した。

同組合はA病院に124食(昼食のみ)、B寮に63食、C寮に43食(昼・夕食)を納入しており、それぞれ25名(20%)、16名(25%)、25名(58%)、計66名(29%)に発症が見られた。同組合はこれらの3施設以外にも納入していたが、メニューが異なり、患者の発生はなかった。患者は図1に示したように24日の18名をピークに22日〜27日までの間に発症している。主要症状は表1に示したように腹痛(88%)、倦怠感(77%)、頭痛(70%)、発熱(64%)であり、下痢(いずれも水様便)は42%(28名)であった。

有症者32名のうち8名(25%)、無症状の喫食者3名のうち1名の検便からYersinia enterocolitica 血清型O3群を検出した。届出が金曜日であったため、調査が週末になり学生寮では帰省している者が多く、A病院で有症者の72%の便が検査できたのに対し、学生寮ではそれぞれ56%、20%しか検査できなかった。このことが学生寮の検便からの原因菌検出者数が少なかった理由であるかもしれない(表2)。

患者の初発から届出までに5日を経過していたことから原因食や汚染経路の特定は難しく、これまでに報告されているY.enterocoliticaの潜伏期間から16日〜20日までの昼食が、また喫食調査のχ2検定により19日の昼食が疑われたが、残っていた食材からはY.enterosoliticaは検出されなかった。調理従事者の検便もすべて陰性であった。6月27日立入り検査時に調理施設や調理器具等のふきとり検査を実施し、サルモネラ、黄色ブドウ球菌等の食中毒原因細菌の検査を行ったが、この時点ではまだ原因菌は特定されておらず、Y.enterocoliticaの検査は実施していなかった。飲料水については上水道を使用しており、塩素の残留が確認されている。

Y.enterocoliticaによる食中毒事例は少なく、食中毒統計でも数年に1度しか発生していない。またPBSでの4℃、21日間の増菌培養は食中毒事件での検索には現実的でない。このために、ともすれば食中毒原因菌の検索時に省略されがちである。今回の事件においても6月27日(検査第1日)に搬入された検便については CIN培地に塗抹、25℃で培養していたが、第2日に搬入されたものについては、従業員の検便や食材の検査と重なり多数の検体を処理する必要上、 CIN培地への接種を省略していた。第3日になり、他の食中毒細菌の可能性が消去され、Y.enterocoliticaの可能性が残ったことから、保存してあった検便について 0.4%KOH処理し32℃24時間培養を行った。結果的に、この検査によって検出されたものが6件で全体の2/3を占めた。

また、KOH処理32℃培養の方がY.enterocoliticaが純培状に増殖し、後の操作が容易であった。KOH処理32℃培養の有用性と食中毒調査における基本の大切さを再認識させられた事例であった。

徳島県保健環境センター 清水俊夫

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