秋田県で最近分離されたNon-O157腸管出血性大腸菌の解析

腸管出血性大腸菌(EHEC) O157:H7は1996年に国内で大規模な集団食中毒を惹起したことなどから重要視されている。一方、「腸管出血性大腸菌感染症」が指定伝染病となって以来、血清群O157以外の、いわゆるNon-O157 EHECによる感染事例も少なからず報告されるようになった。

表1に1996年4月〜1997年8月5日現在までに秋田県で発生したNon-O157 EHECによる感染19事例の一覧を示した。秋田県では他県と異なり、O157:H7よりもNon-O157 EHECによる感染事例の発生頻度が高く、同期間に発生した EHEC O157:H7による感染事例は4事例であった。19事例中、EHEC O26:H11を原因とする事例が10事例と最も多く、また、O103:H2,O150:H8など、国内での分離報告が少ない血清型のEHECを原因とする事例も発生した。家族内感染は8事例に認められたが、家族が共通の食品を介して感染したのか、家族間の二次感染であるのかは不明であった。感染源については、事例2で当該家族で飼育していた子牛が感染源であることが判明した以外、ふきとり調査、飲料水や残存食品の調査などを実施したにもかかわらず、明らかにすることができなかった。また、血便は19事例中4事例に認められたがHUSを併発した事例はなかった。

原因菌はいずれもVT1またはVT2単独産生株であり、O157:H7のようにVT1とVT2を共に産生する株は認められなかった。また、O150:H8とO8群(?)以外はすべてeaeA遺伝子を保有していた。

1996年にO26:H11を原因とする6事例が発生した。これらの事例の分離株、9株についてXbaIパルスフィールド電気泳動(PFGE)パターンを比較した(図1)。家族内感染事例から分離された株はすべて同一のPFGEパターンを示したが、異なる事例間ではPFGEパターンがすべて異なっていた。観察されたPFGEパターンの多様性から EHEC O26:H11についても、O157:H7と同様に多様な起源に由来する菌株が我々の周辺に浸淫しているものと考えられた。

19事例中9事例については、医療機関から検査を依頼された患者便から当所でEHECを分離同定した。当所では患者便についてはDHL平板とCT-SMAC平板による分離培養を実施すると同時に、VT遺伝子を標的としたPCR によりEHECの検出を試みている。O103:H2,O150:H8,O114群(?),O8群(?)のEHECは生菌では凝集がみられないことから市販の血清キットによるスクリーニングでは検出することが不可能であった。なお、市販の血清キットで型別できないEHECはInternational Escherichia and Klebsiella Centreに血清型の決定を依頼している。

Non-O157 EHEC感染症の実態解明は緒についたばかりである。今後、その解明に取り組むためには、糞便からNon-O157 EHECを確実に検出、分離・同定する方法を確立することが必要である。さらに、その方法を使用して多くの地方衛生研究所が患者の糞便を検査対象として、Non-O157 EHECの検索を実施する必要があると考えられる。

秋田県衛生科学研究所微生物部
八柳 潤 斉藤志保子 木内 雄 鈴木陽子 佐藤宏康 宮島嘉道

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