Beutin血液寒天培地での溶血を指標とした腸管出血性大腸菌(EHEC)のスクリーニング

EHECの検索には、O157 、O26等比較的発現頻度の高いO抗原血清型をためし凝集テストでスクリーニングし、その後べロ毒素(VT)産生の有無をみている。しかしこの方法では、石川県で集団発生のあったO118とか秋田県や青森県で発生をみたO103 の事例では、免疫血清が市販されていないこともあって見逃される危険性もある。これを解決するにはVT産生の有無でEHECのスクリーニングをするのが理想的である。我々はBeutinらがVT産生性と溶血との間に高い相関性があることを報告している(下記文献参照)のを受けて、EHECのスクリーニングに溶血を指標とすることが出来ないかどうかについて検討を加えた。その結果、手持ちのVT1産生株(O26、 103、 118)24株、VT2産生株(O157)3株、VT1&2産生株(O111、157)21株はすべて溶血が認められたほか、95株の下痢便由来VT非産生大腸菌株(O26、111、157等を含む)では11株が溶血を示した。また、健康人糞便由来の大腸菌(非産生)1,997株については約10%にあたる194株が溶血陽性であった。河川水由来の大腸菌18株は全株溶血陰性であった()。以上のことから、大量の検体処理を要する検便検査等にあっては、溶血を指標とするEHECのスクリーニングは極めて有用であるといえ、EHEC検出のスピード化、省力化を期待できる。ただVT産生株でも非溶血株があるとの報告もあることから、この方法でVT産生株を逃すこともあり得るが、その頻度は血清型でのスクリーニングでVT産生株を逃すよりは低いのではないかと思われる。

現在我々が行っている検査法は次のとおりである。キャリーブレア培地に採取した糞便をソルビトールマッコンキー寒天培地等に塗抹し、37℃1夜培養後、培地色、桃色〜赤色等のコロニーを3〜5個釣菌し、Beutin血液寒天培地にスポット培養すると同時にCLIG培地等で性状確認をする。37℃1日培養後溶血を観察し、明瞭なβ溶血を示す株でかつ大腸菌が疑える株についてEIA法等によるVT産生の確認を行う。VT産生株については簡易同定キット等による大腸菌の確認同定とO抗原、ならびに必要ならばH抗原の血清型別を行う。

我々が常用しているBeutin血液寒天培地の製法は次のとおりである。滅菌したトリプトソイ寒天培地‘栄研’にリン酸緩衝液(pH7.2)で5回洗浄した羊赤血球(日本生物材料センター)を血液量として5%になるように加え、さらに塩化カルシウムを最終濃度10mMになるように調整し、平板培地として使用する。平板1枚あたり80個位スポットすることが可能である。羊血液は生産するファームによっては溶血不良のものもあるとのことである。

文献)Beutin, L. et al:J. Clin. Microbiol., 27,2559-2564 (1989)
   Beutin, L. et al:J. Clin. Microbiol., 34,2812-2814 (1996)

石川県予防医学協会
木村晋亮 小崎明子 佐々木富子
石川県保健環境センター
芹川俊彦 本庄峰夫 西 正美

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