日本初のセアカゴケグモ咬症例について−大阪府

一昨年、大阪府でセアカゴケグモが発見されたが、今までヒトが咬まれたという報告はなかった。我々は、このクモの毒性を調べ、ヒトが咬まれた場合の影響と対策について調査研究し、各関係機関に注意を喚起してきた。その折、この7月に最初の咬症例が発生した。患者は抗毒素血清が保存されている大阪府立病院に来院し、診察を受けた。筆者は診察を担当した救急診療科の山吉滋医師から診療内容についてのコメントをいただいたので、ここに紹介する。

患者:26歳男子、職業:関西国際空港の清掃員
既往歴:特記すべきもの無し
現病歴:1997(平成9)年7月11日午後3時30分頃、関西国際空港貨物区域で側溝の蓋を持ち上げて溝の清掃中に左大腿部を咬まれた模様。蓋の裏には多数のセアカゴケグモがおり、これらを踏みつぶしながら作業をしていたという。安全靴を履いていたが、作業着のズボンの裾は靴の中に入れていなかった。午後4時16分に関西空港クリニックを受診。左大腿後面に約5cm直径の発赤と大腿の腫脹を認めた。同部の痛みは激しく、左股関節にしびれ感を訴えた。大腿部の腫脹と痛みのため跛行を認めた。体温37℃。血圧 109/72。局所の氷冷を実施しつつ、午後6時に当センターに紹介されてきた。

来院後の経過:独歩にて来院した。痛みと腫脹はかなり軽減していると訴えた。左大腿後面に約3cm直径の発赤を認めるも腫脹はほとんどない。左下肢の脱力感を訴える。WBC 7,900、 RBC481万、血小板20.4万、血清ナトリウム146、カリウム3.7。セアカゴケグモ咬症の全身症状は認められず、抗毒素血清は使用しなかった。経過観察のため入院。翌7月12日朝には痛みも消失し、午前中に退院した。

考察:咬まれた虫を持参しなかったため、セアカゴケグモ咬症とは確定できなかったが、状況からそうではないかと推測された。患者にセアカゴケグモの写真を見せると、間違いなくこのクモを踏みつぶしていたと答えた。

以上が咬症例の全経過であるが、セアカゴケグモ咬症としては軽症だと考えられた。局所症状の最も大きな特徴は痛みであり、この症例もよくその特徴を表していた。オーストラリアからの報告では、セアカゴケグモに咬まれて全身症状を示すものはごく一部であるといわれている。ほとんどの患者は少量の毒素を注入されるだけで、全身症状を呈したため治療が必要となるのは約20%と少ないということである。幸いにもこの症例は軽症であったが、場合によっては重症になることもあるので、このクモに咬まれた場合の対応法について正確な情報を伝えることが重要と思われた。

大阪府立公衆衛生研究所ウイルス課 奥野良信

今月の表紙へ戻る


Return to the IASR HomePage
Return to the IASR HomePage(English)

idsc-query@nih.go.jp



ホームへ戻る