The Topic of This Month Vol.18 No.7(No.209)


Vero毒素産生性大腸菌(腸管出血性大腸菌)感染症 1996〜1997.6

Vero毒素産生性大腸菌(Verocytotoxin-producing Escherichia coli:VTEC)は、産生されるVero毒素が志賀赤痢菌の産生する志賀毒素と非常によく似ていることより志賀毒素産生性大腸菌(Shiga toxin-producing E.coli:STEC)、または出血性大腸炎(hemorrhagic colitis)を起こすことより腸管出血性大腸菌(enterohemorrhagic E.coli:EHEC)と呼ばれている。当該菌による感染症は世界的にも問題になっているが、わが国においても1996年5月以降、集団および散発事例が多発した。厚生省食品保健課の報告によると、1996年の有症者数は 9,451名、入院患者数 1,808名、死者数12名となっている。

有症者数10名以上の1996年の16事例の集団発生状況を表1に示す(本月報Vol.17、No.8も参照)。小学校、保育園、老人ホーム等を発生施設としており、そこで提供された給食が汚染原因と推定されたものが多い。その中で、岐阜市のサラダ、盛岡市のサラダおよびシーフードソース、帯広市のサラダから菌が分離され、それが汚染原因食品と特定された。また、堺市の事例では疫学調査からカイワレ大根が汚染食品として推定された。これらの集団事例から分離された菌は、すべて血清型O157:H7で、毒素型はVT2 による2事例を除き残り14事例すべてVT1+VT2であった(表1)。

O157:H7菌の遺伝子型をXbaI制限酵素切断後のパルスフィールド電気泳動(PFGE)により解析すると、集団事例を中心に分けると大きくI〜VIの6つの型に分類できた(各型の中での変化をa、b等のアルファベットで表してある)。さらに家族内発生例、散発事例を含むO157:H7約 1,700株のPFGEの解析を加えると、 200以上のパターンに分けることができ、多種の遺伝子型の菌により汚染されている現状が明らかになった(J. Clin. Microbiol. Vol.35、p.1675、1997および本号3ページ参照)。

病原微生物検出情報に報告されたVTEC検出状況を図1に示す。1991〜1995年まで毎年 100前後の検出報告数であったが(本月報Vol.17、No.1参照)、1996年は 3,021、1997年(6月5日現在)は 219が報告されている。そのうち1996年のO157は2,687、non-O157は 334、1997年のO157は 201、non-O157は18であった。1996年のピークは7月にみられるが、これは大阪府堺市およびその近傍(和歌山県、京都市、大阪府羽曳野市)で発生した集団事例および同時期、同地域でみられた散発事例を反映したものである。これらのほとんどはPFGE IIa型であった(表1)。

検出されたVTECの血清型および毒素型を表2に示した。1996年および1997年に最も多く分離された血清型はO157:H7で、それぞれ76%(2,307/3,021)、79%(173/219)を占め、1991〜1995年までと同じ傾向であった(本月報Vol.17、No.1参照)。non-O157については、O26:H11、O26:H-、O26:HNT、O111:H-、O118:H2等が分離されているが、1996年の特徴はO118:H2が増加したことである(本月報Vol.17、No.10参照)。しかし、1997年に入ってはまだ分離されていない。O157:H7はVT1+VT2の両毒素を保持している率が高いが(90%前後)、他の血清型のものはVT1単独の傾向を示す。特に、分離されたO118:H2(134株)はすべてVT1単独産生菌であった。

1996年のVTEC検出症例 3,021の年齢分布は15歳以下が全体の76%を占め(表3A)、1995年以前(86%)より低下していた(本月報Vol.17、No.1参照)。この傾向は1997年(6月5日現在)もみられる(47%)(表3B)。VTEC感染が必ずしも若年層に限られなくなってきている傾向にある。

本年に入ってからの発生事例は、家庭を発生場所としたものがほとんどであるが、3月には関東南部および東海地域において明らかな時間的、地理的集積性が認められる発生があった。このうち、愛知県および神奈川県(横浜市)の事例では残余のカイワレ大根からO157が検出されるなど、その関与が疑われた。また、6月下旬に岡山市の病院で給食が原因と推測される集団事例が発生している。夏場にかけてさらなる警戒が必要である。


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