学校給食を原因とする大規模サルモネラ食中毒事例−福岡県宗像市

1996年11月1日、医療機関から福岡県宗像保健所へ小学生2名の食中毒患者が発生し、原因菌としてサルモネラが分離されたことが届け出された。調査の結果、宗像市内の小学校数校で食中毒症状を呈する学童および教諭の存在が確認され、この時点で共同給食施設が原因施設であることが強く疑われた。この給食施設は独立したA、B、2つの調理場からなり、それぞれ同市内の異なる小中学校(合計15校、10,200食)の給食を調理していた。同日、福岡県保健環境部内に宗像市学童食中毒対策本部が設置され、事例の全体像の把握、原因究明、教育庁等関係機関との連絡に当たり、大型食中毒への体制が整えられた。学校当局および保健所の調査では、カゼによる発熱、頭痛等を訴える学童も多く、食中毒患者の実数の把握、および初発患者発生時期の特定が困難であった。

福岡県保健環境研究所にて各医療機関で分離された菌株の菌種の確認と血清型別等を行った結果、Salmonella Enteritidis と同定された。また、有症者の便からも同菌が高率に分離され、当該食中毒がS.Enteritidisによるものである可能性が高くなった。

原因食品特定のための検査は、初発患者発生時期の特定が困難であったことから、保存されていた2週間分を対象とせざるを得なかった。また、腸管出血性大腸菌O157 による食中毒が県内でも発生していたため、本事例が腸管出血性大腸菌によるものでないことをも、明らかにする必要があった。以上の理由から食品の検査は 185検体を対象に、サルモネラおよび腸管出血性大腸菌を中心とした検査が行われた。早急に原因食品を特定するため、通常の培養法に加え、セレナイトブリリアントグリーン培地による増菌培養の上清をサンプルとしてサルモネラのinv A 領域を対象とした市販プライマーセット(宝酒造株式会社)によるPCR を行った。その結果、A調理場の10月25日の給食残品「ほうれん草のピーナッツ和え」3ロットからサルモネラinv A遺伝子を検出した。A調理場の他の給食残品およびB調理場の給食残品からはinv A遺伝子は検出されなかった。しかしながら、通常の増菌法ではこれらのinv A遺伝子が検出された「ほうれん草のピーナッツ和え」3ロット中、1ロットからしかS.Enteritidisを検出できなかった。このロットのS.Enteritidis の菌数は 140 MPN/100gであった。また、他の給食残品からサルモネラは検出されなかった。そこでinv A遺伝子は検出されたが菌体を検出できなかった「ほうれん草のピーナッツ和え」2ロットをビーズ法(EEMブイヨンとBuffered peptone waterで前増菌し、これをDynal 社のDynabeads ant-Salmonellaにて処理後、DHL寒天培地、XLD寒天培地に塗沫した)で検査した結果、これらの検体からS.Enteritidis が検出された(ただしEEM を用いたサンプルからのみ菌が検出された)。

以上の結果から原因食品は共同給食施設のA調理場で10月25日に調理された「ほうれん草のピーナッツ和え」であると断定した。原因菌はS.Enteritidis、喫食者は7小学校の 5,320名、有症者(消化器症状を呈し食中毒が否定できない者)は 644名、発症率12%であった。原因食品の原材料(ほうれん草、人参等)からはサルモネラは検出されなかった。ただし、ピーナッツは調理前の残品がなく、検査していない。発生要因として、器具等の消毒の不徹底および食品・器具等の衛生的保管場所の不備が指摘された。

今回の事例は学校給食調理施設を原因とする大規模な食中毒であり、また腸管出血性大腸菌による食中毒の流行が見られるなかであったため、地域社会の注目を集めた。カゼの流行によって、食中毒患者の実数の把握等に困難を伴ったが、早期における対策本部設置により、大きな混乱もなく事例を終息させることができた。細菌学的検査では多数の食品残品を一度に処理する必要があったが、PCR 法は非常に有用であった。加えて、ビーズ法は、通常の培養法ではS.Enteritidisの検出が不可能であった検体に対して有用であった。

福岡県保健環境研究所
村上光一 世良暢之 竹中重幸 堀川和美 大津隆一 福吉成典
宗像保健所
坂本慎二 石井 修 藤野恒夫 古賀洋一 岩本治也 畑田一憲
福岡県生活衛生課 梅崎誠治 末永 勇

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