突然の心肺停止(心筋炎疑い)による脳死状態の患児からのインフルエンザウイルスB型の分離−千葉県

症例の患児は10歳男児。1997年3月9日21時30分、突然頭痛を訴え意識を失い、心停止となり、千葉C病院救急外来を受診。受診時( 到着まで45分と推定)意識は無く、心音は聴取されず、蘇生までに1時間を要した。入院時頭部CTを施行したが、異常所見は認められなかった。3月14日より脳波平坦化し、脳死状態に入る。現在は保存的治療のみ続けている。入院時の検査所見は、GOT 997IU/l、GPT 226IU/l、 LDH 4,221IU/l、WBC 13,100/μl、 RBC 439×104 /μlであった。なお、この患児は1997年2月13日頭痛を訴え意識朦朧状態が30分続き、千葉市K病院を受診し、心電図上不整脈が認められたが、翌日には消失とのエピソードがあった。

千葉県衛生研究所に搬送された、1997年3月12日採取の検体(気管洗浄液、便、尿)について、HeLa、CaCo-2、MDCK細胞を用いてウイルス分離を試みた。この結果、気管洗浄液からMDCK細胞によりインフルエンザウイルスB型を分離した。分離したウイルスは、インフルエンザセンターより分与を受けたフェレット感染血清(B/三重/1/93)に対して、ホモのウイルスと同様のHI抗体価を示したので、類似の抗原性のウイルスと同定した。また、発病2病日、18病日、25病日の患児血清を用いて、分離ウイルスに対するHI試験をおこなった。2病日は1:128、18病日は>=1:2,048、25病日は>=1:2,048のHI抗体価を示した。この患児は明らかにインフルエンザウイルスに感染していた。

本症例においてインフルエンザ様症状に関するエピソードは、入院時の39.6Cの発熱以外認められず、したがってウイルス感染がどのような役割を果たしていたか必ずしも明らかではないが、GOT、GPT、LDHの上昇は認められた。インフルエンザの流行と一致して、脳炎、脳症の発生が報告されている。インフルエンザウイルスとの因果関係を明らかにするためにも、インフルエンザ流行期には、咽頭ぬぐい液や、髄液を採取することを常に心がけることが大切であると思われた。

ちなみに、1996/97シーズンの千葉県におけるインフルエンザウイルスの分離状況は、11月の末にB型を1株分離したが、その後は AH3型のみが分離された。1月の終りより、AH3型にまじって散発的にB型が分離されるようになった。2月の下旬からは、B型が主になり散発的に AH3型が分離され、3月以降はB型のみになり、5月中旬まで分離された。また、1997年3月10日に採取した6歳の患児の咽頭ぬぐい液の検体から分離されたウイルスは、インフルエンザセンターから分与された抗B/三重/1/93フェレット感染血清とはほとんど反応しなかった。ホモのHI価1:256の時、この分離株は1:16であった。兵庫県立衛生研究所・山岡政興先生より分与を受けた抗B/兵庫/1/91マウス免疫血清に対しては、1:128(ホモのHI価1:128)のHI価を示した。おそらく、この6歳児からの分離株は、大阪府で分離した変異型(本月報Vol.18、No.5、p.4-5参照)に近縁のものと思われる。

千葉県衛生研究所 山中隆也 篠崎邦子 時枝正吉 水口康雄
千葉大学医学部附属病院小児科 小島博之 花澤直子
岸本医院 岸本圭司

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