The Topic of This Month Vol.18 No.4(No.206)


アデノウイルス7型 1995.4〜1996.12

1980年に病原微生物検出情報の収集を開始して以来、報告が稀であったアデノウイルス7型が1995年4月以降相次いで分離され始めた。1996年に入って心臓、肺に基礎疾患を持つ小児の肺炎死亡例からアデノウイルス7型が分離されたことが明らかとなり、日本におけるEmerging Infectious Diseaseの様相を呈してきた。このため厚生省は1996年4月8日付けで注意を促す事務連絡を出した(本月報Vol.17、No.5、P.6ペ−ジ参照)。本月報でも1996年2月までの分離状況を昨年5月に特集した(Vol.17、No.5参照)。その後も病原微生物検出情報への分離報告が続き、小児感染症関連の学会などでも各地の医療機関よりアデノウイルス7型感染重症例の報告が発表されており、引き続き本ウイルスの動向に注意を払う必要がある。本特集では1995年以降のアデノウイルス7型分離状況を改めて報告し、関係者の注意を喚起したい。

1995年4月〜1996年12月に30機関で 274例からアデノウイルス7型が分離された。1995年に報告がなかった九州でも1996年には分離されている(表1)

アデノウイルス7型が分離された検体の種類は鼻咽喉ぬぐい液 212、便72、眼ぬぐい液30、尿4、肺・気管支由来の材料3、胸水1で(同一患者で異なる種類の検体から分離された例を含む)、検出方法は全例培養細胞による分離である。うち8例は電子顕微鏡(EM)による直接検出またはELISAによる抗原検出でも陽性とされている(EM+ELISA4例、EM2例、 ELISA2例)。中和試験による分離ウイルスの型別同定では7型は同じB亜属の3型および11型との間で交差反応がみられる場合があり、注意を要する(本号5ページ参照)。

アデノウイルス7型は、3型と同様に結膜、咽頭、肺、腸管など多臓器で増殖するため多彩な症状を起こす。アデノウイルスの中でこれまで日本で最も多数分離されている3型と対比させるため、1995〜96年のアデノウイルス7型と3型の月別分離報告数を図1に示した。7型は1995年4月以降毎月分離されているが、季節性ははっきりしない。一方、3型は例年夏季を中心に分離されている。

1995〜96年にアデノウイルス7型と3型が分離された 274例および 751例の年齢と臨床診断名を表2に示した。0〜14歳の7型分離例中臨床診断名が記載されていた 176例では、呼吸器疾患が 137(78%)と大半を占める。この中には、肺炎20例および呼吸不全を起こした重症例2例や兄弟例の報告(本号4ページ参照)が含まれている。消化器疾患は20(11%)、不明熱・熱性けいれん16( 9.1%)で、その他には出血性膀胱炎1、VAHS(ウイルス関連血球貪食症候群)1(本号3ページ参照)が含まれている。一方、15歳以上の7型分離例38例では流行性角結膜炎とインフルエンザ様疾患(集団発生例11例を含む:本月報Vol.17、No.5、3ページおよび本号4ページ参照)がほとんどであった。低年齢では呼吸器疾患が主で、成人では眼疾患がみられるという傾向は3型と共通しているが、7型分離例では高熱を呈する例が多く、40C以上の割合が35%であった(3型分離例では27%)。

高熱が続く肺炎患者を診察した場合はアデノウイルス7型感染を疑い(Vol.18、No.1、4ページ参照)、一般的な院内感染防止対策のほか、便および咽頭ぬぐい液からのアデノウイルス抗原検出ELISAによる迅速診断(型別同定のためにはウイルス分離が必要)を実施し、病室を分ける、特に患者の便の取り扱いに注意するなど、心肺機能に基礎疾患があったり、免疫が低下している小児へのウイルス伝播を阻止する対策を講じることが望まれる。


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