Salmonella Enteritidisによる家庭内食中毒で死者の発生をみた一事例について−大阪市

1996年11月号本月報に、東京都内のS.Enteritidis(SE)による家庭内食中毒で死者の発生をみた事例が報告された。我々も、昨年7月に大阪市内で起きたSEによる家庭内食中毒で、1名が死亡した事例を経験した。

1996年7月28日深夜、外出先から帰宅した次男(28歳)は、両親が腹痛下痢に苦しんでいるのを発見した。しかしながら、日曜日の深夜でもあり、父親(59歳)自身の「しばらく寝ておれば治る」との言葉に従って就寝した。ところが翌朝呼びかけても父親から応答がなく、母親(55歳)もきわめて重症と判断された。慌てて救急車を呼び入院させたが、父親はすでに死亡していた。母親からの聴き取り調査では、発症日は7月27日。夕刻から両名とも体が重く気分がすぐれず悪寒もあった。夜(父親10時30分頃、母親11時頃)になって嘔気、嘔吐、水様下痢などの消化器症状が始まったという。

そこで、家庭内にあった残品として26日夕食のスパゲティ、27日朝食の卵サンドイッチ、27日夕食の鯖ずしと家庭内のふき取り検体が29日に当研究所に搬入された。さらに、行政解剖で採取された胃、小腸、大腸について、それぞれの粘膜と内容物、および血液の計7検体が30日に搬入された。その結果、27日のサンドイッチと鯖ずしからSEが検出された。血液からは検出されなかったが、消化管粘膜と内容物からSEが純培養状に検出された。また、病院で行われた母親の検便でもSEが分離された。監察医および担当医師からの届け出を受けSEによる家庭内食中毒と断定した。

食品および患者からの分離菌株のDNAを制限酵素Bln I、Xba Iを用いて消化し、パルスフィールド電気泳動法により解析した(実験条件は予研・寺嶋らの方法に準じた)。Bln Iによる消化で、鯖ずし由来株が他の2株に比べ2本のバンドを欠失しているのが認められたが、Xba I処理ではその泳動パターンに差は認められなかった。(写真)

同居している次男も、26日の夕食まではほぼ両親と一緒に食事をとっているが、外出していたため27日は両親との共通食はなかった。したがって、食中毒の原因食品は27日に喫食されたものと推察された。発症日時と潜伏時間から、27日朝食の自家製卵サンドイッチが原因食として疑われたが、増菌培養でのみ検出されたことから菌数は100 CFU/g以下と推定される。夕食に供された鯖ずしの方が菌数は多かったが(直接培養、300 CFU/g)、下痢が始まる数時間前に食しており、一般に言われるサルモネラ症の潜伏時間と合致しない。鯖ずし製造店のふき取りや食材調査でもSEは検出されなかった。鯖ずしについては、卵サンドイッチや患者から汚染され、検査されるまでの保存中にSEが増加した可能性も否定できない。このような状況から卵サンドイッチによる可能性が高いと考えられるものの、すでに消費され残されていなかった食品もあり、原因食品を特定することはできなかった。

死亡した男性が特別な基礎疾患を有していたとの報告はなく、亡くなる前日(28日午前中)も数時間家業に従事している。しかしながら、本事例も東京都の例と同様に、発症の翌々日には死亡しており、その経過は迅急性である。昨年の夏は、腸管出血性大腸菌O157に注意が集中していたが、SE食中毒についても鶏卵の汚染状況の把握と菌の毒力の変化について監視を続けるとともに、消費者への徹底した啓蒙活動が必要と考えられる。

大阪市立環境科学研究所保健疫学課
西川禎一 長谷 篤 小笠原準
中村寛海 北瀬照代 石井営次 安川 章

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