腸管出血性大腸菌O157:H7による集団感染事例について−岩手県

平成8(1996)年9月26日、盛岡市内の複数の医療機関から盛岡保健所に、盛岡市のM小学校(在籍児童842人、教職員42人)に通学している児童から病原性大腸菌O157が検出された旨の連絡があり、当衛研で検索した結果、27日、腸管出血性大腸菌O157 Vero毒素(VT1、VT2)産生性と同定した。

県では、ただちに盛岡保健所に伝染病対策委員会を設置するとともに、腸管出血性大腸菌O157対策連絡会議を招集し、合同で必要な対策を進めた。なお、本事例は伝染病予防法の指定伝染病に指定されて以来、初めての集団発生ということで、厚生省からも職員が派遣された。

保健所の調査によると、感染者数は 220名で、このうち医療機関で治療を受け、届け出のあった者は41名であった。初発患者は9月20日であり、有症者の発生は9月24日、25日が最も多く、10月5日以降新たに症状を発現した者はいなかった。症状は全体的に軽く、ほとんどの者が腹痛を訴え、患者の7割が下痢症状、患者の1割(5人)に血便が認められたが、HUS等の重症患者は出ていない。

10月6日以降患者の発生のないこと、および10月29日までに保菌者全員の菌の陰性化が確認されたことから、本集団発生は終息した。

医療体制については連絡対策会議で定めた「腸管出血性大腸菌O157等の重症患者等に対応できる医療体制」等に基づき医師会との連携協力の下に迅速、円滑に患者の受け入れができた。

原因究明については連絡対策会議の下部組織として、原因究明専門家検討会議を設置し、県、岩手大学、衛生研究所、小児専門医らの専門家による原因究明会議を6回開催し(他に作業班会議3回)、原因究明のための調査ならびに検査を実施し、総合的検討を行った。

検査法については、厚生省通知の基本となる方法およびPCR法により検食、食材、環境材料等 277件について検出を試みた。培養法では(−)であったが、PCR法で検食No.45(サラダ)が(+)となったので、この日の検食にしぼり、初回使用したmEC増菌培地から免疫磁気ビーズ法による分離を試みたところ、No.45(サラダ)とNo.43(シーフードソース)からO157を検出することができた。RPLAによる毒素産生試験においてVT1、VT2を検出し、確認のため実施したPCRにおいても(+)の結果を得た。なお、リヴェール・20(米国、NEOGEN Corporation社製)で同じmEC増菌培地を検体として実施したところ、No.43、No.45どちらの検体でも陽性反応を示した。

検査は保健所をはじめ衛生研究所、民間検査機関とそれぞれ分担を決めて実施されたが、県・市医師会、各病院、大学の絶大な協力をいただき懸念された重症者もなく、二次感染も最小限におさえられたことは不幸中の幸いであった。

厚生省をはじめ、国立予防衛生研究所、国立公衆衛生院、隣県の地研の支援をいただき深く感謝します。

岩手県衛生研究所 一ノ渡義巳 吉田耕次 田頭 滋 熊谷 学 斎藤幸一 五日市恵里

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