劇症型A群レンサ球菌感染症の診断基準案の提示

劇症型A群レンサ球菌感染症(streptococcal toxic schock-like syndrome 、以下TSLS)の診断基準案は米国防疫センター(CDC )の研究者らによる私的作業班(以下CDC 診断基準案)やStevensらが提唱している。これらの診断基準案は(1)A群レンサ球菌性敗血症、(2)ショック病態、および(3)多臓器不全を根拠としている。いずれの診断基準案でも軟部組織壊死と皮膚疹が多臓器不全の症状に含まれている点に特徴がある。厚生省研究班は本邦におけるTSLSの発病状況をアンケートにより調査し、CDC 診断基準案に基づき、96例のTSLS症例を確認した。これらの症例を検討して、TSLSを「突発的に発症し、急速に多臓器不全または死に至るA群レンサ球菌の敗血症病態」と定義し、CDC 診断基準案に若干の修正を加えて本邦におけるTSLS診断基準案を提示した()。

修正点の1として多臓器不全症状に中枢神経症状を加えた。CDC診断基準案の多臓器不全症状は米国集中治療学会(ACCP/CCM)委員会の診断基準を引用したものと思われるが、集中治療医学では中枢神経症状は別途に評価されるため、多臓器不全症状には含まれない。本邦のTSLS症例を検討すると、不安、興奮などの精神症状や、混迷、痙攣などの中枢神経症状を呈した症例が見られ、これらを多臓器不全に加えるべきと考える。

第2点は基礎疾患の有無である。A群レンサ球菌は組織浸潤性の強い菌であり、免疫不全を来す基礎疾患を持つ症例や、血行不全部の創傷部またはすでに他菌による炎症を惹起した部位に感染すると、広範な壊死性筋膜炎・筋炎を起こし、さらに敗血症に進行する危険性がある。本邦のTSLS症例で半数の症例は特別な基礎疾患は認められず、また創傷が感染源と考えられる症例はなかった。免疫不全を来す基礎疾患を持たない症例に発症する点も診断基準に加えるべきと思われる。

第3点は病態の進行速度である。本邦のTSLS症例中で基礎疾患を持たない症例は発症からおおむね24時間以内に多臓器不全に陥るか、または不幸な転帰をたどった。このような急速な病状の進行は従来のA群レンサ球菌による軟部組織炎とは異なる所見である。基礎疾患の範疇および病態の進行度については今後検討を必要とするが、暫定的にに示したごとく定めた。これらの要素を考慮して厚生省研究班の捕捉した本邦のTSLS症例を再検討すると、約半数の症例が主として基礎疾患を有していたことによりTSLS症例から除外されることになる。しかし現時点ではTSLSの二次感染または集団発生は認められず、また症例数も少ないため、本疾患は社会的な脅威とはなり得ない。さらにTSLSの発症機序が全く解明されていないことを考慮すると、狭義にTSLSを定義することが本疾患の病態究明および新たな菌・宿主関係の探索に益するものと考える。

国保旭中央病院麻酔科    清水可方
東京都立衛生研究所細菌部  五十嵐英夫
東邦大学医療短期大学    村井貞子
日本医科大学老人医学研究所 大国寿士
国立予防衛生研究所細菌部  渡辺治雄
東京女子医科大学微生物・免疫学教室 内山竹彦
国保旭中央病院中央検査部  大江健二

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