アデノウイルス7型による急性呼吸器疾患の散発事例 大阪府富田林市

従来まれであったアデノウイルス7型(以下Ad7)感染症が、1996年5月〜8月までの間、当科診療地域において散発したのでその概要を報告する。症例は全部で11例(男児9例、女児2例)、年齢は生後4カ月〜5歳(平均2歳5カ月)であり、疾患は上気道炎群6例(咽頭結膜熱3例、咽頭炎1例、滲出性扁桃炎2例)、下気道炎群5例(気管支炎1例、肺炎4例)であった。

ウイルス検索結果をに示す。ウイルス分離材料は主に鼻、咽頭ぬぐい液を用い、分離用細胞にはFL細胞を用いた。胸腔穿刺を実施した肺炎2例の胸水からAd7が分離された。また、アデノウイルス抗原検査[ELISA法・アデノクロン(TFB社)]は、便4検体(肺炎3例、滲出性扁桃炎1例)と胸水1検体(肺炎1例)の計5例が陽性であった。肺炎4例の回復期血清のAd7中和抗体価は、全例有意の上昇を示した。

臨床上の特徴は、上気道炎群に比べて下気道炎群の症状が重いことであった。すなわち、両群間で有意差がみられた項目とその平均値(上気道炎群:下気道炎群)で示すと、有熱日数(7.0日:12.4日)、CRP最高値(1.9mg/dl:3.7mg/dl)、血小板最低値(19.3×104/ul:13.3×104/ul)、LDH最高値(599IU/l:2684IU/l)、GOT最高値(44.7IU/l:266IU/l)、GPT最高値(24IU/l:105IU/l)となった。下気道炎群のうち肺炎4例はすべて胸水貯留を伴い、そのうちの1例(生後4カ月)は胸腔内持続吸引と15日間の人工呼吸管理を要した。症状の多彩なことも特徴的で、呼吸器症状以外に、痙攣重積、うっ血性心不全、DIC、腎障害の合併症がみられた。治療は対症的に行わざるを得なかったが、死亡例はなかった。

諸外国の報告通り、Ad7肺炎は乳幼児で重症化する傾向が当科の症例でも認められた。比較的炎症反応が乏しいにもかかわらず、発熱が遷延し、血清LDHが高値の肺炎をみたときには、本症を疑う必要があると思われた。

PL病院小児科 西村 章 村上道子 南浦保生 門谷眞二 西本真喜子 中嶋達郎 加藤伴親 村上圭司
大阪府立公衆衛生研究所 加瀬哲男 前田章子 奥野良信

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