The Topic of This Month Vol.17 No.12(No.202)


腸チフス・パラチフス 1994.1 〜1996.9

腸チフスおよびパラチフスに関しては、都道府県衛生部が厚生省に発生を報告し、患者および保菌者から分離された菌は国立予防衛生研究所(予研)に送付される。予研細菌部外来性細菌室ではファージ型(PT)・薬剤感受性等を検査し、結果を都道府県へ還元している。本報告では菌送付書および送付菌株から得た情報等をもとに1994〜96年9月までの発生状況を解析した。

腸チフス発生数(患者・保菌者の合計)は1994年74、95年61であり、1993年を除き減少傾向が継続している(表1)。一方パラチフス発生数は、1993年12月〜1994年1月にかけ冬季流行があった1994年は51となった。さらに1995年は8〜9月にかけて流行があり71で、わが国では初めてパラチフス発生数が腸チフス発生数を上回った(図1表1)。両疾患とも輸入例の割合が高い傾向が続いている。

前回の特集で報告した、三重県志摩地方での1993〜94年冬季のパラチフスA菌PT1および2による流行は(本月報Vol.15、No.4参照)、その後の食品検査・環境調査・疫学調査等により、何らかの原因で漁港を汚染した菌が、民宿や漁業者がこの漁港に係留した生ガキまたは魚介類に取り込まれ、それを喫食した人が感染したものと考えられた(衛生微生物技術協議会第17回研究会報告)。

1995年には広域のパラチフスA菌PT3による流行が観察された。7〜11月にかけて24例(7月1、8月16、9月6、11月1)の発生があり、発生地域は1都13県にまたがっていた。同一時期の発生であること、わが国ではPT3によるパラチフスの発生は少なく、1990〜94年の5年間で3例のみであること、分離株のパルスフィールド電気泳動法によるDNA型が同一であることから、広域流行であることが示唆された。しかし、原因は特定できなかった(本月報Vol.16、No.10参照)。

1996年3月には、静岡県の大学生および引率者17名が2週間にわたりシンガポール・マレーシア・インドネシアを訪れ大学サークルの学生交流を行った際、チフス菌(PTD2、M1)およびパラチフスA菌(PT1)に感染した集団例があった。数名が軽度の下痢等の症状を呈し、帰国時に空港検疫所において細菌検査を受けたが陰性であった。その後、8名が発熱等の症状を呈したため受診して菌が発見され、隔離施設に収容されたものである。赤痢菌、サルモネラおよびランブル鞭毛虫による混合感染もみられた(本月報Vol.17、No.7参照)。

表2はチフス菌、表3はパラチフスA菌のファージ型分布である。この間に検出されたチフス菌のPTは24種であった。国内例では15種、輸入例では21種が検出された。両者に共通にみられるD2、A、M1、E1、UVS1、B1、DVSが共に上位を占めているが、年によって多少の変動がある。1994年12、95年7と多かったUVS1が96年は3のみで、逆に6、4だったAが14と増えている。パラチフスA菌のPTは5種であるが、1996年は2種しか分離されず、そのほとんどがPT1であった。

図2に腸チフスおよびパラチフスの年齢別発生数を示した。従来通り両疾患とも20〜29歳の年齢群の発生が多い。発病から診定までに要する日数は1994〜96年の平均では腸チフス13.3日、パラチフス14.7日と、過去の平均診定期間と大差はなかった。6週以上かかった例が8(4.2%)および13(9.0%)あった。

薬剤耐性チフス菌検出状況を表4に示した。5剤耐性チフス菌がインド亜大陸・カンボジア・ベトナムからの帰国者から検出されており、この地域において本菌の流行が継続していることが推察される。また1996年にパラチフスA菌PT1 22中8(国内例2)がスルファメトキサゾール・トリメトプリム合剤耐性を示した(本号3ページ参照)。


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