国立感染症研究所 感染症情報センター
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高病原性鳥インフルエンザ
感染症発生動向調査週報の「読者のコーナー」にご寄稿をいただいた文書を掲載しています(IDWR 2011年第10号掲載予定)。

東北地方太平洋沖地震後の仙台市とその周辺での
インフルエンザウイルス検出状況

2011年3月22日現在

 東北地方太平洋沖地震の被災地ではなお多くの被災者が衛生状態の万全ではない避難所での生活を余儀なくされており、感染症の流行が危惧されている。特にインフルエンザはすでに避難所での感染も確認されており、今後さらに流行が広がる恐れもある。今回我々は震災後に、インフルエンザウイルスを仙台市とその周辺で検出したので報告する。

 検体は仙台市およびその周辺から採取された59件の咽頭もしくは鼻咽頭ぬぐい液、およびインフルエンザ迅速診断キット残液である。A型インフルエンザ(H3N2およびH1N1pdm)の検出および判別はConventional RT-PCRを行った。採取された検体を適切な輸送培地中で輸送できた検体は少なくそのために検出感度は高くなかった。しかし、合計で21件の検体がPCRで陽性となった。その内訳はH3N2が19件、H1N1pdmが2件であった。このうち避難所に関連する陽性例としては、仙台市若林区で被災者のサポートをしていたスタッフ(H3N2)、同若林区の避難所の被災者(H3N2)、石巻市の避難所の被災者(H3N2)、岩沼市の避難所の被災者(H1N1pdm)が陽性であった(表1)。また仙台市急患センターでの迅速診断の結果を表2に示す。震災後の3月12日から3月21日までの10日間に仙台市急患センターを受診者した成人および小児の1,180例中、335例(28.3%)にインフルエンザウイルスの迅速診断が行われ、うち107例(31.9%)がA型インフルエンザ陽性、5例(1.5%)がB型インフルエンザ陽性であった。

(表1)避難所と関連するA型インフルエンザの陽性例

検体採取日 検出ウイルス 患者情報
3月17日(木) H3N2 20歳代女性、仙台市若林区の避難所の被災者のサポートをしていたスタッフ
3月17日(木) H3N2 石巻市の避難所で避難生活
3月19日(土) H1N1pdm 岩沼市の避難所で避難生活
3月20日(日) H3N2 5歳女児、仙台市若林区の避難所で避難生活

(表2)仙台市急患センター受診者数とインフルエンザ迅速診断陽性数(2011年3月12日〜3月21日)
日付 総受診者数 迅速診断実施数 A型陽性 B型陽性
3月12日(土)
70
18
8
0
3月13日(日)
221
63
37
1
3月14日(月)
102
27
10
0
3月15日(火)
94
19
6
0
3月16日(水)
79
29
2
1
3月17日(木)
74
16
6
1
3月18日(金)
65
23
4
0
3月19日(土)
109
27
2
0
3月20日 (日)
198
64
17
2
3月21日 (月)
168
49
15
0
合計
1,180
335
107
5

 仙台市および宮城県においてはインフルエンザの流行は、2010年12月に始まり2011年1月下旬にいったんピークを迎えていた。この流行の主体はH1N1pdmであったが、流行が終息傾向に向かっていた2月中旬以降再度増加傾向が見られていた。仙台市衛生研究所のデータでは2011年8週時点ではH3N2が最も多くH1N1pdmとB型が一部に見られるという状態であった1)。このことより、2月下旬以降の再流行の主体はH3N2であったと考えられる。つまりH3N2を中心としたインフルエンザの再流行が見られている段階で3月11日の震災が起きたということになる。震災のために通常のサーベイランスが行われておらず、検査体制も不十分であることから現在の被災地域でのインフルエンザの全体像を把握することは困難であるが、震災後も仙台市やその周辺ではインフルエンザの流行が継続して起きていることが確認された。

 被災地の避難所では多くの人が狭い空間で暮らしており、手洗いなども十分にできないので、インフルエンザの流行が起きやすい環境である。特に、H3N2は高齢者を中心に重症化する例が多くみられるウイルスであり、今後、避難所を中心として厳重な警戒が必要である。


1) 仙台市インフルエンザ・感染性胃腸炎等流行情報(第16号)仙台市衛生研究
http://www.city.sendai.jp/shoku/__icsFiles/afieldfile/2011/03/11/ryuukou.pdf


東北大学大学院医学系研究科微生物学分野
 鈴木 陽、岡本道子、当广謙太郎、神垣太郎、押谷 仁

仙台市救急医療事業団
 中川 洋


(2011年3月22日 IDSC 更新)

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