国立感染症研究所 感染症情報センター
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高病原性鳥インフルエンザ

被災地における麻しんについて(第2報)

2011年4月20日現在
国立感染症研究所感染症情報センター

※被災地における麻しんについて(第1報)はこちら

 麻しんは「はしか」とも呼ばれ、麻しんウイルス(Paramyxovirus Morbillivirus 属)によって引き起こされる感染症で、39℃前後の高熱と、咳・鼻汁・目の充血(カタル症状)、耳介後部から始まって顔面、体、四肢へと広がる赤い発疹を特徴とする全身性疾患です。麻しんウイルスに対して免疫を持たない者が感染した場合、典型的な臨床経過としては10〜12日間の潜伏期を経て発症し、カタル期(2〜4日間)、発疹期(3〜5日間)、回復期へと至ります。発生頻度は低いものの、麻しん脳炎(麻しん患者1,000人に1人)や、罹患後7〜10年の期間を経て発症する亜急性硬化性全脳炎(SSPE、麻しん患者10万人に1人)などの重篤な合併症になったりします。また麻しん肺炎は比較的多い(麻しん患者10人に1〜2人)合併症で麻しん脳炎とともに2大死亡原因といわれていますが、先進国であっても1,000人に1人の割合で死亡する可能性があります。麻しんは感染力が強く、接触感染、飛沫感染、空気感染(飛沫核感染)のいずれの感染経路でも感染し、発症した場合に麻しんに特異的な治療方法はありませんので、症状を和らげる治療をしながら回復を待つしか手立てがありません。唯一の有効な予防方法はワクチンの接種によって麻しんに対する免疫を予め獲得しておくことです。1歳以上で1回もワクチンを受けていない場合は、可及的速やかに受けておくことをお勧めいたします。2回のワクチンを受けていればまず罹らずにすみますので、第2期、第3期、第4期の対象者の方はできるだけ早く受けておくと良いでしょう。

 2011年3月11日の震災発生以降、日本全国はもとより外国からも多くの救援隊や医療関係者、報道関係者、ボランティア等が被災地へ駆けつけていますが、そのような状況のなか、4月になり外国人ジャーナリストが日本国内で麻疹を発症し、都内や近隣の被災地で取材活動を続けていたことがわかりました。

 今後も被災地には、海外からの者も含めて人の出入りが続き、国内外から麻しんが持ちこまれる可能性があります。現在、被災地では平常と異なり栄養状態が十分でない方々も少なくなく、麻しんが流行すれば重症の患者さんが通常よりも多く発生することも懸念されます。支援業務やボランティアに携わる方々は、麻しんの罹患歴・接種歴が不明な場合にはワクチンを接種してから行くこと、体調が思わしくない場合には被災地へ行かないこと、被災地で体調が悪くなった場合には、活動を控えることを徹底して下さい。

 麻しん患者が発生した際には関係自治体と速やかに情報共有し、疫学調査を行い感染拡大防止を実施する事が重要です。また、被災地や避難所のある地域においては、麻しん風しん混合ワクチンの定期接種(第1期:1歳、第2期:小学校入学前1年間、第3期:中学1年生、第4期:高校3年生相当年齢の者)が確実に実施できる体制を速やかに確保することが必要でしょう。

 【参考:日本における麻しん輸入例および輸入関連症例の疫学】

 2011年は第13週までの麻しん報告数93例中、輸入例および輸入関連症例は26例(28%)を占めています(麻疹速報グラフ第13週、図6 http://idsc.nih.go.jp/disease/measles/2011pdf/meas11-13.pdf)。また、2009年〜11年における輸入例・輸入関連症例の年齢中央値はそれぞれ1.5歳、11歳、6歳であり、麻しんワクチン接種の機会を待機していた年齢層と一致します(表1)

表1.日本における麻しん輸入例および関連症例*
2009年
2010年
2011年
(第13週まで
4月6日現在)
全体の累積報告数
739
450
93
輸入例および関連症例
(n、累積報告数に占める割合%)
18(2.4)
33(7.3)
26(28.0)
臨床診断例
(n、輸入例に占める割合%)
1(5.6)
9(27.3)
3(11.5)
検査診断例:IgM抗体価のみ
(n、同)
16(88.9)
10(30.3)
1(3.8)
検査診断例:遺伝子型判明例
(n、同)
2(5.6)
18(51.4)
17(65.3)
年齢中央値 
(歳、範囲)
1.5(0〜37)
11(1〜36)
6(0〜44)
* 輸入例とは推定感染地域が国外の症例。関連症例とは、輸入例と疫学的関連が示唆される症例。

詳細については以下の「麻疹」のサイトの各種記事をご参照ください。
http://idsc.nih.go.jp/disease/measles/index.html

(2011年4月20日 IDSC 更新)

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