国立感染症研究所 感染症情報センター
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高病原性鳥インフルエンザ
被災地におけるレジオネラ症について

2011年3月25日現在
国立感染症研究所 細菌第一部・感染症情報センター

 レジオネラ症には、肺炎と一過性の発熱があります。通常は菌を含んだエアロゾル(数μmの水の粒)を吸引することにより発症しますが、溺水した場合にも発症することがあるので、津波に被災後に肺炎になった場合にはレジオネラ症も疑う必要があります。レジオネラ症は湿度と温度の高い7月に多く報告されますが、寒い季節でも環境水や土壌中に、菌数は少なくても生息しています。津波の水には、レジオネラ属菌を含んだ土壌や環境水が取り込まれていることが想定されます。

 2004年12月26日のインド洋大津波後の被災者の感染症では、肺炎が予想外に多かったことが報告され(1)、その治療には、キノロンとクリンダマイシンを用いる治療が有効であったことが報告されています(2)。これらの抗菌剤はレジオネラ肺炎の治療にも有効です。レジオネラの培養には専用の培地を必要とし、当時は確定診断が十分なされていない状況でした。レジオネラ症が報告されていませんが、発症していた可能性があります。

 溺水で誤嚥した環境水中のレジオネラの菌数が少ない場合(通常の検査で非検出である10個/100mL未満)でも発症した事例があります(3,4)。また、一度肺炎になると有効な抗菌剤の投与がないと重症化しやすいので注意が必要です。

 レジオネラ肺炎の潜伏期間が2-10日なので、この期間は注意する必要があります。レジオネラはヒトからヒトへ感染しないので、避難所内でインフルエンザのように流行することはありません。

 避難生活で体力が低下してくると日和見感染であるレジオネラ症の発生リスクが高まります。被災後の予防対策として、やむを得ず消毒していない環境水を使用する場合は、エアロゾルの生じるシャワー等には利用しないようにしましょう。必要がなければ災害対策上の放水等には近づかないようにしましょう。土壌や腐葉土からの感染予防、エアロゾルの発生する作業時には、マスクの着用が予防に有効です(5,6,7)

■レジオネラ症の詳細については、以下を参照下さい■
感染症週報(IDWR)2002年第12週号掲載、感染症の話
http://idsc.nih.go.jp/idwr/kansen/k02_g1/k02_12/k02_12.html
病原微生物検出情報(IASR)2008年12月号、レジオネラ症 2003.1〜2008.9
http://idsc.nih.go.jp/iasr/29/346/tpc346-j.html

■参考文献■
1)Khamsi R. Tsunami survivors face pneumonia threat. Respiratory disease deemed biggest menace in disaster's aftermath. Nature. Published online 7 January 2005, doi:10.1038/news050103-12
http://www.nature.com/news/2005/050103/full/news050103-12.html

2)Maegele M, Gregor S, Yuecel N, Simanski C, Paffrath T, Rixen D, Heiss MM, Rudroff C, Saad S, Perbix W, Wappler F, Harzheim A, Schwarz R, Bouillon B. One year ago not business as usual:wound management, infection and psychoemotional control during tertiary medical care following the 2004 Tsunami disaster in southeast Asia. Crit Care. 2006;10(2):R50.

(3)Miyamoto H, Jitsurong S, Shiota R, Maruta K, Yoshida S, Yabuuchi E. Molecular determination of infection source of a sporadic Legionella pneumonia case associated with a hot spring bath. Microbiol Immunol. 1997;41(3):197-202.3 cfu/100mLで感染がPFGEで分子疫学的に確定した事例

(4)小山敏枝、木村哲郎、岡田邦彦、羽毛田牧夫、前川純子、倉 文明、渡辺治雄:温泉で溺水後に発症した重症肺炎の一例、厚生科学研究費補助金「レジオネラ感染症の新しい診断技術の開発とその標準化に関する研究」(主任研究者斎藤 厚)、平成10年度研究報告書、p76-79.6 cfu/100mLで感染がPFGEで分子疫学的に確定した事例 

(5)嶋田直美、倉園貴至、小野冷子、山口正則、高柳幸夫:自家製腐葉土が原因と考えられたLegionella pneumophila SG1による感染事例−埼玉県、病原微生物検出情報 2005, 26:221-222
http://idsc.nih.go.jp/iasr/26/306/pr3061.html

(6)O'Connor BA, Carman J, Eckert K, Tucker G, Givney R, Cameron S. Does using potting mix make you sick? Results from a Legionella longbeachae case-control study in South Australia. Epidemiol Infect. 2007, 35(1):34-9.

(7)鹿児島でレジオネラ菌感染 足湯人気 管理に死角(朝日新聞2008年3月7日)。マスクを着用せずに足湯を高圧洗浄器で清掃して感染。

(2011年3月25日 IDSC 更新)

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