国立感染症研究所 感染症情報センター
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高病原性鳥インフルエンザ
アセスメントに基づく注意すべき感染症

2011年3月14日現在−3月16日改訂
国立感染症研究所 細菌第一部・感染症情報センター

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 本アセスメントは定期的な更新を予定する一方、主に被災地・避難所等における保健衛生・医療従事者の業務上の参考・ツールの情報にしていただくことも目的としています。その都度のアセスメントに基づき、自治体や避難所等において注意すべき感染症の種類や内容が時期的・地域的に変わっていくことが考えられます。

 3月14日現在の被災地・避難所における感染症リスクアセスメントに基づく注意すべき感染症は以下の通りです(計6症候群・疾患)。

以下にそれぞれに疾患について概説します。なお、「予防に必要なもの」として、避難所などで使用されたり、実施されたりすることを想定した必要最小限のもの に挙げています。

急性下痢症

予防に必要なもの:清潔な飲料水、手洗いの水、速乾性アルコール製剤、トイレ、
おむつ、ティッシュペーパー


 急性胃腸炎には細菌性とウイルス性があり、この季節にも多いのはウイルス性の急性胃腸炎です。主な症状は下痢、嘔吐、発熱です。感染経路は主に糞口(ふんこう)感染で、ノロウイルスやロタウイルスは感染力が強く少量のウイルスで感染すると考えられています。感染した患者から排泄されたごく少量の便が原因で2次感染が起こります。避難所等の、過密で衛生状態が十分に維持出来ない状況においては、感染のリスクがより増している可能性があり、他の細菌性の急性下痢症(血便や腹痛などにも注意すべき)に加え、災害時に最も注意すべき感染症であることが知られています。ウイルス性の胃腸炎の場合には特別な治療法はなく、脱水予防と下痢に対する対症療法が基本となります。水分をこまめに少量ずつ補給することが大切で、細菌性の場合に抗菌薬の投与が検討される場合があります。脱水がひどい場合、その他、重症度に応じて転送などを検討される必要があります。一般的に、症状のある方の排泄物(おむつなどを含む)・吐物の適切な処理、手洗い、汚染された衣類の消毒などの取り扱いには注意すべきです。被災地・避難所では困難なことが予想されますが、出来るだけ、食事の準備や食前、排便の後、また、赤ちゃんのおむつ交換後、お子さんの排泄処理後には手洗いを行うようにしましょう。

■関連リンク■
(感染性胃腸炎) http://idsc.nih.go.jp/idwr/kansen/k03/k03_11.html
(ノロウイルス)http://idsc.nih.go.jp/idwr/kansen/k04/k04_11/k04_11.html
(腸管出血性大腸菌感染症)http://idsc.nih.go.jp/idwr/kansen/k02_g1/k02_06/k02_06.html

インフルエンザ

予防に必要なもの:手洗いの水、速乾性アルコール製剤、マスク、咳エチケット


 避難所等で注意すべき感染症の一つはインフルエンザです。今シーズンのインフルエンザの流行は2011年の1月下旬をピークに患者数は減少していましたが、2月下旬頃よりB型のインフルエンザの流行による感染拡大がみられていて、今後避難所等でもB型を中心としたインフルエンザの集団発生が多発する可能性があります。インフルエンザの主な感染経路は飛沫感染であり、他に接触感染もあります。避難所等で何日も寝食を共にする集団生活は大家族と同様ですから、1人がインフルエンザを発症したら、次々に感染していっても不思議ではありません。インフルエンザの感染予防対策の基本は咳エチケットと手指衛生です。避難所では空気が乾燥していて、喉の保湿・保清のためにも、もしマスクがあればマスクを着用していただいた方がよいでしょう。水は飲料水や調理・調乳に優先使用され、遠慮なく手洗いができる状況ではない場合が殆どでしょうから、速乾性アルコール製剤による手指衛生が用いられる場合があると思われます。38度以上の高熱と咳・喉痛などの急性呼吸器症状を発した場合はインフルエンザを疑ってください。発病者はできれば隔離をしたほうがよいのですが、状況によっての判断となります。また、感染しても軽症のためインフルエンザと診断されない人もいますので、感染拡大及び重症者の発生防止のためには患者発生後には高齢者や乳幼児など感染によるリスクの高い人を中心に、抗インフルエンザウイルス薬の予防内服を行うことも選択肢に入れておくべきです。

■関連リンク■
(インフルエンザ) http://idsc.nih.go.jp/idwr/kansen/k05/k05_08/k05_08.html

急性呼吸器感染症(インフルエンザ以外)

予防に必要なもの:手洗いの水、速乾性アルコール製剤、マスク、咳エチケット


 避難所などにおいて過密状態にある人は、飛沫感染・手指を介する接触感染などによって伝播する急性呼吸器感染症に罹患するリスクがより高く、適切な診断と治療が必要です。急性呼吸器感染症とは急性の上気道炎(鼻炎、副鼻腔炎、中耳炎、咽頭炎、喉頭炎)あるいは下気道炎(気管支炎、細気管支炎、肺炎)を指し、多彩な病原体による症候群の総称です。小児の肺炎ではウイルス性が多く、インフルエンザウイルス以外ではRSウイルス、パラインフルエンザウイルス、などによるものが知られています。細菌においては肺炎球菌やインフルエンザ菌が一般的です。マイコプラズマ肺炎や結核などで、集団発生として発見される場合があります。軽症の場合、補液や(細菌性であれば)経口の適切な抗菌薬投与によっても治療可能ですが、重症者、重症化の兆候あるいはリスクが高い場合(高齢者等)には転送を検討します。咳エチケットは予防に有効であり推奨されます。急性呼吸器感染症全てに対応するワクチンはありません。

■関連リンク■
(RSウイルス)http://idsc.nih.go.jp/idwr/kansen/k04/k04_22/k04_22.html
(マイコプラズマ)http://idsc.nih.go.jp/idwr/kansen/k03/k03_09.html
(結核)http://idsc.nih.go.jp/idwr/kansen/k03/k03-07/k03_07.html

麻疹(他のワクチン予防可能疾患を含む)

予防に必要なもの:(可能であれば)ワクチン接種歴の把握


 麻疹(はしか、麻しんも同義)は発熱、発疹を主訴とし、肺炎などによる重症化も高頻度で、かつ空気感染により感染力が大変強い感染症で、大規模災害などにおける避難所において問題になることがあります。特異的な治療法はなく、対処療法を行うしかありません。国内では、2008年度以降の麻疹対策で患者数は著減しています。しかし、海外からの感染を含め、麻疹を発症する方があった場合、集団への影響が非常に大きいので、避難所のような人が集まる場所では、一人の麻疹を疑わせる患者発生に対しても厳重に注意しましょう。特に、麻疹を疑わせる症状の方で、麻疹を含むワクチン接種歴の無い方、あるいは1回のみの方の場合には、至急、診断のための対応を行いましょう。麻疹が強く疑われた場合には、緊急の麻疹含有ワクチンの接種などを、感受性者(特に未接種者未罹患者)に対して検討する必要があります。唯一の予防方法はワクチン接種によって麻疹に対する免疫をあらかじめ獲得しておくことです。今後の生活の中ではしかワクチン接種を受ける機会があれば、予防接種を受けたことがない人は出来るだけ早く、また、1回受けたことがある人も2回目の予防接種を受けましょう。

 他に避難所で流行する可能性があるワクチン予防疾患としては、百日咳もその中に含まれます。最近は、症状が咳だけなどの青年・成人での百日咳発症が目立っています。避難所などでは、幅広い年齢層が一緒に生活をしておりますので、DPT(ジフテリア・百日咳・破傷風)ワクチン接種を受けていない乳児(死亡を含む重症化のリスクが高い)との接点があるかもしれません。青年・成人で長期的な咳が続く場合、医療・保健関係者に早めに報告してもらい、適切な抗菌薬の投与を受けることが重要です(抗菌薬投与5日程度で感染力は消失すると言われています)。乳児についても、百日咳を疑わせる症状がある場合には急ぎ報告してもらい、対応しましょう。対象者がワクチン接種を受ける機会があれば、出来るだけ早く、DPTワクチンの予防接種を受けていただきましょう。

■関連リンク■
(麻しん) http://idsc.nih.go.jp/disease/measles/QA.html
(百日咳) http://idsc.nih.go.jp/idwr/kansen/k03/k03_36.html

破傷風(特に救助された被災者、救助者に関連して)

予防に必要なもの:(可能であれば)ワクチン接種歴の把握


 破傷風は、土壌中に広く常在する破傷風菌(Clostridium tetani)が産生する毒素のひとつである神経毒素(破傷風毒素)により強直性痙攣をひき起こす感染症です。潜伏期間(3 〜21 日)の後に局所(痙笑、開口障害、嚥下困難など)から始まり、全身に 移行し、重篤患者では呼吸筋の麻痺により窒息死することがあります。インドネシア・スマトラ島沖大地震(2004年末)の際には、2005年1月になり100例を超す破傷風患者が報告されました(男性が60%)。破傷風は、特に災害発生後初期から早期にかけて発生しやすい、土壌や瓦礫などにより創傷や骨折を負った方に対して考慮すべき疾患です。ワクチンは受傷者に対して接種され、破傷風を含むワクチンを接種されたことの無い方については、破傷風特異的免疫グロブリンが破傷風トキソイドと共に投与されるべきです。予防策としては破傷風を含むワクチンが有効ですが、避難所などで予防として集団的に接種することは通常ありません。

■関連リンク■
(破傷風) http://idsc.nih.go.jp/idwr/kansen/k02_g1/k02_15/k02_15.html

創傷関連感染症

予防に必要なもの:傷を洗浄する清潔な水


 大災害後の数日間は外傷とそれに伴う皮膚軟部組織感染症が大きな問題になります。汚染の強い外傷や海水の曝露を受けた外傷の場合は、黄色ブドウ球菌や連鎖球菌による感染症に加え、大腸菌などのグラム陰性桿菌、嫌気性菌も感染症の原因となります。適切な創処置に加え、破傷風予防(トキソイド、破傷風免疫グロブリン)や感染リスクの高い創に関しての予防的抗菌薬投与が勧められます。創傷の処置を行う際には体液に直接触れないために感染予防(標準予防策)が必要です。

■関連リンク■
(メチシリン耐性黄色ブドウ球菌) http://idsc.nih.go.jp/idwr/kansen/k02_g1/k02_18.html

(2011年3月29日 IDSC 更新)

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