国立感染症研究所 感染症情報センター
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被災地あるいは被災により避難中の小児における定期予防接種の考え方(第1報)
−自治体担当者および接種医の皆様へ−

2011年5月6日現在
国立感染症研究所感染症情報センター

  東日本大震災発生から1ヶ月半が経過し、復興に向けた活動が現地の方々を中心に進められています。震災発生後の混乱した状況の中ではありますが、定期予防接種(以下、定期接種)の接種対象者がワクチン接種を受けやすい体制を準備する段階にさしかかっていると考えています。特に、震災で接種を受けることが難しかった児を対象としたキャッチアップ体制の確立と、被災地や避難所における個人および集団の感染症対策の一つとして、予防接種のあり方について考えていきたいと思います。

 以下に、被災地および避難所等における小児の定期接種に対する考え方を示しましたので、可能なところから接種が再開されることを期待したいと思います。

  1. 定期接種対象年齢になった時点で接種を開始できるよう、被災地の市町村と医療機関が連携して、接種可能な医療機関の把握をお願いいたします。
    • かかりつけ医で接種が再開されることが望まれます。
    • かかりつけ医の医療機関が被災等で接種が困難になっている場合は、必要に応じて集団接種等も考慮しつつ、接種可能な医療機関についての広報をお願いします。

  2. 震災による母子手帳の紛失や市町村の記録の消失等で、これまでの予防接種歴が不明な場合は、保護者の記憶も勘案しながら、個人の発症予防と周りへの感染拡大防止の観点から予防接種を実施する方向で考えましょう。
    • 場合によっては記録不明のため接種回数が若干多くなることも予想されますが、数回の過剰接種であれば現行のワクチンにおける医学的問題は少なく、むしろワクチンを接種していなかったことによるマイナス面(罹患の危険性)が高いことを、接種者も保護者も理解することが必要です。

  3. 接種後は必ず接種記録を本人と医療機関(市区町村)の双方で保管し、今後の記録に反映させましょう。

  4. 予防接種は体調が良いときに接種するのが原則です。たとえ緊急的な接種であったとしても、予診と接種前の診察は丁寧に行い、接種の可否を医学的に判断することが重要です。

  5. 接種後は健康状況の観察を行い、心配な症状を認めた場合は、相談できる体制とともに、緊急受診が必要な場合に備えて、事前に受診医療機関を定めておくことも重要です。


【特に早期の接種再開が期待されるワクチン】

 

  1. 麻しん風しん混合ワクチン(MRワクチン)
    1. 東京都と神奈川県では、海外からの輸入例を発端として麻しんが急増しています。麻しんの感染力は極めて強く、被災地でひとたび発生すると大規模な流行になること、麻しんに対する免疫が無い者が発症すると重症化が心配されます。

    2. 定期接種対象者で、予防接種不適当者に該当しない場合は、できるだけ早く接種を行いましょう。
      ※ 定期接種対象者
      1. 1歳児
      2. 小学校入学前1年間の幼児(今年度6歳になる幼児)
      3. 中学1年生相当年齢の者(今年度13歳になる者)
      4. 高校3年生相当年齢の者(今年度18歳になる者)

    3. もし一人でも避難所で麻しんの患者が発生した場合は、2.に示した定期接種対象者に加えて、同じ避難所で生活あるいは支援活動をしていた40歳未満の方で下記に該当する場合は、可及的速やかにMRワクチンの接種を行いましょう。
      1. 麻しんワクチンを受けたことがなくかつ麻しんに罹ったことがない者
      2. 麻しんワクチンの接種歴・麻しんの罹患歴が不明な者

    4. 接種に際しては、たとえ緊急接種であっても、予防接種不適当者に該当しないことを確認しましょう。

  2. 百日せきジフテリア破傷風混合ワクチン(DPTワクチン)
    1. 避難所で流行する可能性のある疾患として百日咳が挙げられます。百日咳は感染あるいは予防接種によっても生涯免疫を維持できるものではなく、教科書的には予防接種後の免疫を維持できる期間は4〜12年ほどと言われています。

    2. 近年、中学校〜大学生、若年成人などでの流行の例が増加してきており、死亡を含む重症化率が極めて高い乳児への感染源となりますので、以下のような対応を行ってみましょう。

    3. DPTワクチン接種対象者(第1期初回として生後3 〜90か月(標準的には生後3〜12か月)に3回、及びその12〜18か月後に追加接種)に対しては出来るだけ早く、既定の回数を接種出来るように考慮しましょう。

    4. 百日咳を疑わせる症状は,次の通りです。
      1. 2週間以上続く咳
      2. 吐きそうになる咳
      3. 突然連続しておこる咳
      4. ‘whoop’のある咳

      これらの症状が避難所で見られた場合は、百日咳を鑑別診断に含め、周りの人への感染拡大防止に努めましょう。成人の場合にはa.のみの場合や、咳がひどくろっ骨骨折のみの場合があります。

    5. マクロライド系など、百日咳に効果のある抗菌薬を内服した場合には、服用後5日目頃より感染力が無くなることが分かっています。早期の適切な診断が避難所におけるまん延防止に重要です。


 被災地での感染症の拡大を防止するとともに、被災地で生活されている人々が等しく感染症から守られるためには、そろそろ必要な予防接種を実施する時期にきていると考えます。

 以上の考え方は、今後の復興の進行状況や、各市町村の体制に応じて、臨機応変に変更していく必要があり、現状可能な対策を構築する一助になることを期待して記載したものです。

 なお、厚生労働省は、被災地の対象者が被災地を離れて避難先で定期接種あるいは緊急接種事業の対象となっている予防接種を希望した場合は、避難先の市区町村で実施できるよう事務連絡を発出し、予防接種を受けやすくする対策を講じています。

  (参考)厚生労働省健康局結核感染症課
・東北地方太平洋沖地震に伴う予防接種の取扱について(3月16日)
 http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/2r98520000014tr1-img/2r98520000015332.pdf
・災害等により予防接種を受けられない者に対する特例措置について(4月25日)
 http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/2r9852000001aezx-img/2r9852000001af1l.pdf

(2011年5月6日 IDSC 更新)

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