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被災地における感染性胃腸炎の予防対策について(第2報) |
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2011年4月6日現在 |
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※『被災地における感染性胃腸炎の予防対策について(第1報)』はこちら
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Key words |
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ウイルス性の胃腸炎、手指衛生、流水・石鹸による手洗い、速乾性刷りこみ式アルコール製剤、衛生対策としての水の供給、塩素系消毒剤、密封して破棄、間隔、水分の補給 |
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1.はじめに |
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感染性胃腸炎には細菌性とウイルス性があります。現在の季節は、ノロウイルスやロタウイルス等によるウイルス性の胃腸炎が発生しやすい状況です。 |
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2.現在の感染性胃腸炎の流行状況について |
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国立感染症研究所感染症情報センターで行っている感染症発生動向調査では、全国の小児科医療機関からの感染性胃腸炎の報告数は、2011年第12週(3月21〜27日)は2週連続で減少しました。震災までは国内での報告状況にあまり偏りは見られませんでしたが、第12週の医療機関当たりの報告数が全国平均を上回ったのは全て富山県、愛知県よりも西側の府県のみとなっています。被災地を中心とした岩手県、宮城県、福島県の流行状況は正確には把握できる状況にはないものの、他の東日本の各都道県は全て継続的に減少傾向を示しています。例年の動向を参照すると、感染性胃腸炎は3月下旬に報告数は減少し、その後4月に再び増加、5月中旬以降8月までは減少傾向が続きます。しかしながら、年間を通してある程度の患者発生はみられており、インフルエンザのように殆ど患者が発生しない時期はありません。患者発生の中心は小児ですが、高齢者の集団生活施設でも度々集団発生がみられています。現在は12月のように大きく流行している時期ではありませんが、避難所等の集団生活の状況下で感染性胃腸炎を起こす病原微生物が持ち込まれる可能性は常にあると考え、準備・対応を行っていただきたいと思います。 |
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3.具体的な予防対策 |
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感染経路は経口感染、糞口感染、接触感染、飛沫感染と多岐に渡ります。以下は最も感染力の強いノロウイルス等のウイルス性胃腸炎を考えての予防対策です。 A)個人で行って欲しい予防対策: 集団生活の中でヒト−ヒト間で広がっていく主な感染経路の1つに接触感染、糞口感染があります。ノロウイルス等の病原微生物が付着している人の身体、衣服、あるいは物品等を触り、最終的にはウイルスを自分の手に付着させた状態で自分の鼻や口を触り、あるいは飲食物などに入り込んだウイルスが口腔内に入り、嚥下されて腸管に達することによって感染します。 接触感染対策の最大にして最後の砦(とりで)は手指衛生です。感染性胃腸炎対策としての手指衛生では流水・石鹸による手洗いが最も推奨されます。しかし、水不足でまだまだ実行できないような場所では、出来るだけ手の汚れを落とした後、速乾性刷り込み式アルコール製剤による手指衛生を行ってください。アルコールによる手指衛生は、ノロウイルス等に対しては十分ではありませんが、細菌性などノロウイルス以外の感染性胃腸炎予防には効果的ですから、アルコールをしっかりと手にとって丁寧に手指消毒を行うことは推奨されます。まだアルコール性の手指消毒剤が少ないところであっても、食事の前(調理・配膳される方はもちろんその前に)、トイレの後、外から帰った後等の糞口感染が発生しやすい状況において優先的に、可能な範囲内での手指衛生を行ってください。なお、物品や屋内表面の消毒などに用いられる塩素系消毒剤は皮膚に障害を与えるので、基本的にこの消毒剤は手指など体表面の消毒には用いないようにしてください。 かつて、手指を浸けて消毒する目的で洗面器等に消毒薬を作り置きすることが医療機関等で行なわれることがありましたが、かえって手指を細菌やウイルスなどで汚染してしまう温床となりえますから避けるべきです。 |
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B)嘔吐物や下痢便の処理: 集団生活施設内で感染性胃腸炎の発病者由来の嘔吐物や下痢便が放置されていると、接触感染の原因となりますし、ノロウイルス等の病原微生物が乾燥して埃と共に舞い上がり、それを吸い込むことによって一気に感染が拡大する場合があります。嘔吐物や下痢便を発見した場合は、速やかにペーパータオルかまたは破棄してもいいタオルや雑巾等で拭き取り、拭き取ったものはビニール袋などに入れて密封した上で、できれば塩素系の消毒剤(濃度は200ppm注以上)で嘔吐物や下痢便があった箇所を広めに消毒してください。消毒は消毒剤をたっぷりと浸したペーパータオルやタオル等による拭き取り消毒を行い、使用したタオル等はビニール袋などに入れて密封し、先のビニール袋と共に破棄してください。なお、この処理を行う際には、従事する方はできる限りマスクと手袋(この手袋は清潔である必要はなく、ゴム製で破れにくい材質のものが推奨されます)を着用してください。また、処理が済むまでは他の方はその場所から2m以上離れていただくように指示をしてください。 注:1%濃度は10,000ppmに相当します。市販されている塩素系消毒剤は5〜6%、すなわち50,000〜60,000ppmの濃度ですから、例えば200倍に薄める(希釈)すると250〜300ppmとなります。なお、塩素系の消毒剤がない場合には、塩素系の漂白剤を代わりに使用していただいてもかまいません。 |
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C)汚れた衣類について: |
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E)発病者に対するケアー |
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4.食事に対する注意 | |||
食材に細菌やウイルス等の感染性胃腸炎の病原微生物が入ったままで被災者の方々の食事として供さないために、基本的には熱による調理を経たものを食事に供していただきますようにお願いします。これによって、食材からの感染性胃腸炎を防ぐことができます。その上でヒト−ヒト感染で侵入してくる感染性胃腸炎に対する注意を行っていただきますようお願いします。また、ノロウイルスを中心とする感染性胃腸炎の症状がまだある方、および回復後3日以内の方は、感染のリスクを考慮して、この間は調理に従事しないようにご注意ください(参考:米国疾病予防センター(英語)http://www.cdc.gov/ncidod/dvrd/revb/gastro/norovirus-keyfacts.htm)。 |
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5.最後に |
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感染性胃腸炎は、発病している人だけがウイルスや細菌に感染しているわけではなく、症状のない方でもこれらの病原微生物の感染を受けている場合も少なくありません。避難所等多くの人々が生活している施設内で発病者が発生した場合には、発病者だけではなく、外来者を含めて全員がしっかりとした手指衛生を行っていただくことが基本となります。そのための水、消毒剤などを早い段階から準備しておくことが重要です。 また、発病者だけがいたずらに不当な扱いを受けるようなことがないようにもご配慮いただきますようにお願いします。ボランティアとして被災地・避難所に赴く方についても、急性胃腸炎の症状がある場合には無理をせず、病原体を持ち込まないように注意してください(参考:被災地・避難所でボランティアを計画されている皆様の感染症予防について)http://idsc.nih.go.jp/earthquake2011/IDSC/20110317volunteer.html)。 |
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(2011年4月6日 IDSC 更新) |
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