国立感染症研究所 感染症情報センター
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高病原性鳥インフルエンザ

被災地におけるインフルエンザの予防対策について(第2報)

2011年4月6日現在
国立感染症研究所感染症情報センター

※『被災地におけるインフルエンザの予防対策について(第1報)』はこちら

Key words

 インフルエンザ、咳エチケット、マスク、流水・石鹸による手洗い、速乾性刷りこみ式アルコール製剤、治療を最優先、間隔、ワクチン以外の方法での予防


1.個人で行う予防対策

 インフルエンザの主な感染経路は咳やくしゃみによる「飛沫感染」であり、他に「接触感染」もあります。飛沫感染対策としては咳エチケットが重要です。「咳エチケット」とは、咳・くしゃみが出たら、他の人にうつさないために症状のある人がマスクを着用すること、マスクがない場合は、ティッシュなどで口と鼻を押さえ、他の人から顔をそむけて1m以上離れること、鼻汁・痰などを含んだティッシュはすぐにゴミ箱に捨てること、咳をしている人にマスクの着用をお願いすることです。

 避難所では空気が冷たくて乾燥している場合が多いので、気道の保湿という点からは咳等の症状がない場合でもマスクの使用をお奨めします。しかし、マスクが枯渇しているところも多いと思われますので、そのような時には発熱や咳等の症状がある方に優先的にマスクを装着していただくようにしてはいかがでしょうか。

 接触感染対策はノロウイルス等による感染性胃腸炎の予防対策として、より重要となります(参考:国立感染症研究所感染症情報センター:被災地における感染性胃腸炎の予防対策についてhttp://idsc.nih.go.jp/earthquake2011/index.html)。最も重要な手指衛生としての流水・石鹸による手洗いは、避難所によってはまだ難しいと思いますが、入手可能であれば速乾性刷り込み式アルコール製剤による手指消毒を推奨します。水が確保できたならば、手を洗った後に速乾性刷り込み式アルコール製剤を使います。救援関係者の方々は感染対策用品としてマスクと共に速乾性刷り込み式アルコール製剤を優先的に避難所に搬送していただきますようお願いいたします。


2.抗インフルエンザウイルス薬による治療と予防

 避難所等の集団生活施設内でインフルエンザ発病者がみられた場合には、その方の治療を最優先することが重要です。発病者を隔離することは理想的ですが、多くは困難であろうと思われますので、発病者とそれ以外の方との間隔をできるだけあけ、可能ならば間に衝立(ついたて)等を置くようにしてください。また、インフルエンザは多くの場合自然に治癒しますが、抗インフルエンザ薬(タミフル・リレンザなど)が入手できるようであれば、発症が疑われる段階で速やかに抗インフルエンザウイルス薬による治療を行ってください。

 抗インフルエンザウイルス薬の予防投薬は、原則的には推奨されません。流行期間中であれば施設内等で次々に患者が発生する可能性が高く、その状況下では予防内服が長期にわたってしまうこと、予防内服によって治療薬が枯渇することがあってはならないこと、などの理由からです。もちろん、インフルエンザの患者さんと濃厚に接触してインフルエンザウイルスに感染している可能性が高く、発病した場合に重症化する可能性が高いこと等の理由によって医学的に必要と判断される場合に予防内服を実施することはあります。


3.被災地の方々に対するインフルエンザワクチン接種について
 インフルエンザワクチンの接種ですが、避難所で生活しておられる多くの方々を対象に接種を行うということは、現時点では困難であり、優先的な対策ではありません。これから膨大な人員、ワクチン、費用を費やして準備を行い、ある程度の日数を経てインフルエンザワクチンの接種が可能となった時点で接種を行っても、ワクチンの接種後に効果が現れてくるまでには2週間以上を要するため、その頃にはインフルエンザの流行が収束傾向となっていることも予想されます。現在東北地方を含む多くの都道府県でインフルエンザが再流行しており、非常に注意しなければなりませんが、これまでは通常4月以降は全体の患者発生数の減少がみられています。従って、今の段階では、ワクチンによる予防より治療ワクチン以外の方法での予防が優先であると考えられます。

 なお、インフルエンザを発病すると重症化するリスクが高い方が医師と相談の上で個別にワクチンの接種を実施されることはこれまでと同様です。


4.現在のインフルエンザの流行状況について
 日本国内のインフルエンザの流行は3月に入って再燃し、患者報告数は再び増加していましたが、第12週(3月21〜27日)は大きく減少しました(インフルエンザ流行レベルマップ:https://nesid3g.mhlw.go.jp/Hasseidoko/Levelmap/flu/index.html参照)。今後全国的には減少傾向が続いていくものと予想されます。最近の流行はA香港型(AH3亜型)が中心でしたが、ここへきてBインフルエンザの割合が増えてきています。近畿地方より東側の地域では全ての都道府県でインフルエンザの報告数は減少していますが、残念ながら被災地を中心とした岩手県、宮城県、福島県の流行状況は正確には把握できる状況にはありません。被災地の避難所ではインフルエンザの散発例の発生が続いているとの情報があり、多数の人々が集団生活を送る状況は今後も継続していきますから、まだ当分の間はインフルエンザの発生に注意し、その感染拡大の防止に努める努力が必要です。


5.被災地に入られる方へ

 被災地に入られる場合は、できる限りインフルエンザウイルスを持ちこまないように、体調が悪い場合は無理をして入らないようにしてください。また、被災地に入られる方については、可能であれば既に今冬のインフルエンザワクチンの接種を済ませている、あるいは接種をしてから行かれる方が、備えの観点からはより望ましいと思われます(参考:被災地・避難所でボランティアを計画されている皆様の感染症予防についてhttp://idsc.nih.go.jp/earthquake2011/IDSC/20110317idsc01.pdf)。特に避難所は集団生活の場であり、一度インフルエンザの患者が発生してしまうと次々に感染が拡大してしまう可能性は十分にありますので、避難所に入られる場合は念のためにマスクを着用し、咳エチケットに努めていただきますようお願いします。インフルエンザウイルスに感染していても、高い熱がなくて周囲も本人も感染に気付かない例は少なくありません。

(2011年4月6日 IDSC 更新)

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