国立感染症研究所 感染症情報センター
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インフルエンザ

2002年、 米国ペンシルバニア州で発見されたバンコマイシン耐性黄色ブドウ球菌
  (MMWR October 11, 2002/Vol. 51/No. 40


 黄色ブドウ球菌は病院感染、 市中感染の最も一般的な起炎菌である。1988年にバンコマイシン耐性腸球菌(VRE)が報告されて以来、 最小発育阻止濃度(MIC)≧32μg/mlを示すバンコマイシン耐性黄色ブドウ球菌(VRSA)の出現が危惧されていた。実験的には既に1992年にバンコマイシン耐性遺伝子 vanA を含む遺伝子領域がEnterococcus faecalis から黄色ブドウ球菌に移りうることが示されていた。また2002年7月にはVRSAによる初の感染症例が報告された(1)。本稿ではこれに続く2例目のVRSA感染症例について報告する(2)

 この患者は9月20日にペンシルバニア州の病院に入院し、 慢性足底潰瘍と骨髄炎の疑いで検査を受けていた。潰瘍からの培養で黄色ブドウ球菌が分離されたため、 ディスク法によるバンコマイシン感受性検査とバンコマイシン6μg/ml入りBHI培地への接種を行った。その結果この培地で発育が見られたこと、 またディスク法での阻止円径も12mmしかなかったことからバンコマイシンへの感受性が低下していることが疑われた。さらにEtestでMIC=64μg/mlを示したことからこの黄色ブドウ球菌がバンコマイシン耐性であることが確認された。ペンシルバニア保健局(PDH)に届け出た後、 この菌株をCDCに送付し、 微量液体希釈法でMIC=32μg/mlと確定した。この菌株はオキサシリン耐性を担うmecA 遺伝子とバンコマイシン耐性を担うvanA 遺伝子の両方を保有していたが、 クロラムフェニコール、 リネゾリド、 ミノサイクリン、 キヌプリスチン/ダルホプリスチン、 リファンピシン、 スルファメトキサゾール/トリメトプリムには感性だった。

 患者は既に退院し、 自宅での抗菌薬療法が奏功している。この病院ではPDHとCDCの支援を受けて病院感染対策、 自宅での感染対策、 他の患者、 医療従事者、 家族、 その他関係者への伝播について調査を行っている。これまでのVRSA症例では患者以外への伝播の報告はない。

 今回のVRSAがvanA を保有していることから、 遺伝子をVREから獲得したことが推測される。このVRSAの発生は前回のミシガン州でのVRSAとは関係がないと考えられる。しかしいずれの事例も接合を通じた遺伝子の獲得による耐性化の可能性が高く、 同様のVRSA感染症例が今後更に起きることが予測される。臨床微生物検査室ではVRSAを検出できる感受性検査法を行い、 また後で確認検査が行えるようにVRSA疑いの菌株を保存しておくことを徹底すべきである。更に、 体系的にVRSAをサーベイランスすることで公衆衛生当局や医療機関が早期にこの耐性菌を検出し対策を講じることができるはずである。

 今回のVRSAの発生に対する公衆衛生上の対策は現在進行しつつある。適切な病院感染対策と抗菌薬療法によりVRSAなどの耐性菌の発生と拡散は食い止められるはずであり、 CDCは耐性菌感染症の患者への医療では個室管理、 手袋とガウンの着用、 手洗いの励行、 ケアに必要な物品の専用化などの接触予防策を取るよう奨励している。VRSAの拡散を予防するためのCDCガイドラインは、 http://www.cdc.gov/ncidod/hip/10_20.pdfで入手できる。

 バンコマイシン耐性が確認された、 あるいは疑われる黄色ブドウ球菌を分離した際には菌株を保存した上で州あるいは郡の保健局を通じてCDCのNational Center for Infectious Diseases内 Division of Healthcare Quality Promotion(電話800-893-0485)に連絡をされたい。


(1). CDC, MMWR 51:565-567, 2002
(2). CDC, MMWR 51:902, 2002


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