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速報:バンコマイシン耐性腸球菌感染症1999年4月〜2004年(2005年2月22日現在) | |||||||||||||
バンコマイシン耐性腸球菌(VRE)はバンコマイシンだけでなく、多くの抗菌薬に耐性を獲得した腸球菌である。VREも含めた腸球菌は元来病原性が低く、健康なヒトの腸管内に常在するいわゆる「善玉菌」である。しかし、易感染状態のヒトにおいては、腸管以外の部位において致命的感染症を起こしうる。特に、医療施設において高齢者や集中治療室(ICU)患者などにおける日和見感染症の起因菌となった場合には、有効な治療薬がないので治療に難渋することもしばしばあり、注意すべき病原体である。本邦では腸球菌全体に占めるVREの頻度は現時点では非常に低いが、海外では近年多くの地域で頻度が高くなっている。米国の病原体サーベイランスによると、ICUにおいて分離される腸球菌のうち13.9%がVREであった(National Nosocomial Infections Surveillance Report, 2004, Centers for Disease Control and Prevention)。 本邦でもMRSA(メチシリン耐性黄色ブドウ球菌)に目を向けると、黄色ブドウ球菌全体に占める割合が50%近くに達しており、VREがそれと同様の経過をたどることが懸念されている。VRE保菌に至る要因としては、耐性菌に共通して言えることであるが、抗菌薬の使用によるVRE選択の圧力が挙げられる。VRE保菌者から他の患者への伝播・拡散は、主にVREが付着した手指、衣服、器具などを介して起こる。しかも、VRE保菌者が下痢などの症状を呈することは少ないため、保菌者として同定されないケースが多い。このような保菌者に対する排泄介助・処理などの濃厚な接触において標準予防策が遵守されないと、伝播拡散の大きなリスクとなる。 VREはバンコマイシン耐性遺伝子の型によりVanA、VanB、VanC、VanD などに分類される。このうちVanA とVanB はバンコマイシンやテイコプラニンなどグリコペプチド系抗菌薬に高度耐性を獲得している。一方、VanC は比較的耐性が低く、また健康人における保有の頻度も高いとされている。
1999年4月の感染症法施行以降、VRE感染症は全数把握の対象疾患として、診断したすべての医師に報告が義務づけられている(当面はVRE保菌者の報告も推奨されている)。1999年4月〜2004年53週の間に診断され、感染症発生動向調査に報告されたVRE感染症患者総数(保菌者も含む)は252例である。報告数は2003年まで毎年増加傾向であったが、2004年には前年よりやや減少した(図1)。性別では男性140例、女性112例とやや男性に多い。年齢群別では70代76例、80代66例、60代29例、90代20例で、高齢者が大半を占める(図2)。地域的には、北海道から鹿児島県まで全国から広く報告されている。実数では東京都46例、神奈川県25例、北海道・福岡県各23例などが多いが、人口比では図3に示す通り、秋田、山梨などが多くなっている。過去1例も報告のない県が9カ所ある。 VREが分離された検体別内訳は、便が68検体と最も多いが、血液(56検体)や尿(51検体)なども多い。通常、便検体中の腸球菌は感受性試験を行なわないので、便からVREが分離された報告事例の多くは、他の部位(尿など)の検体からVREが検出された同一患者の監視培養か、あるいはその同室者のスクリーニングによる検出と思われる。図4に示す通り、便以外の部位からVREが検出された事例の多くは有症状であるのに対し、便から検出された症例で有症状のものは約半数にとどまっている。死亡例は17例報告されているが、分離検体との関連を見ると血液・尿が各5例、便・胆汁が各2例などであり、死亡とVRE感染との因果関係は不明ながらも、血液・尿から分離された症例の予後が悪い傾向が見られた。
VanA とVanB は便から多く検出されているのに比べ、VanC は血液や胆汁からの検出が多かった。菌種の同定はあまり行われておらず、記載がある限りではE. faecalis が8株、E. faecium が6株、E. gallinarum が13株、E. casseliflavus が11株であった。菌種と遺伝子型との関係を見ると、VanA についてはE. faeciumが4株とE. faecalis が1株、VanB についてはE. faecalis のみ3株が同定されている。E. gallinarum とE. casseliflavus の遺伝子型は全てVanC、または不明であった。 (IDWR 2005年第21号掲載) |
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