国立感染症研究所 感染症情報センター
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◆ 腸チフス 2004年(2005年2月16日時点)


腸チフスはチフス菌(Salmonella Typhi)の感染によって起こる全身性疾患である。チフス菌の感染はヒトに限って起こるので、患者および無症状病原体保有者の糞便と尿、およびそれらに汚染された食品、水、手指が感染源となる。通常は1〜3週間の潜伏期の後、39〜40℃の発熱が出現する。主要症状は高熱の持続で、他に特記すべき症状のないことが多い。比較的徐脈(高熱のわりに脈拍数が少ない)、バラ疹、脾腫が3主徴とされているが、これらの出現率は30〜50%台である。便秘、時には下痢のみられることもある。合併症として腸出血、腸穿孔があるが、ニューキノロン薬が使用されるようになってからは稀である。また、適切な治療がなされないと、再発・再燃や慢性のチフス菌保菌者になることがある。しかし最近、ニューキノロン薬低感受性の症例の増加が問題となっている。

腸チフスは、感染症法(1999年4月1日施行)に基づく二類感染症として、疑似症患者、無症状病原体保有者を含む症例の届け出が、診断した全ての医師に義務づけられている。過去の年間累積報告数は、2000年86例、2001年65例、2002年63例、2003年62例であり、2004年の報告数(診断週が2004年第1〜53週のもので、2005年2月16日までに報告されたもの)は66例と、過去3年とほぼ同様であった。それらのうち、疑似症が5例で、無症状病原体保有者は3例であった。

疑似症を除く61例の性別は男性31例、女性30例で、年齢は2〜67歳(中央値22歳)であった。

推定感染地域は国内10例、国外49例、不明2例であった。死亡例の記載はなかった。病原診断は細菌培養により行われているが、その検体の種類をみると、有症状者(58例)では血液および便5例、血液のみ40例、便のみ11例、腸粘膜2例で、無症状病原体保有者(3例)では便2例、尿1例であった。

図1. 腸チフス患者の性別・年齢別報告数(2004年) 図2. 腸チフス患者の発症月別報告数(2004年) 図3. 腸チフス国外感染例の推定感染国(2004年)

国内を推定感染地域とする10例(男性3例、女性7例)について、年齢群別にみると、10歳未満3例、10代1例、20代0例、30代3例、40代1例、50代0例、60代2例、70歳以上なし(年齢中央値32歳)であった(図1)。発症日の記載のあった8例では、発症月や季節に偏りは見られなかった(図2)。なお、いずれの症例も推定感染源は特定されなかった。

国外を推定感染地域とする49例(男性27例、女性22例)について、年齢群別にみると、10歳未満5例、10代12例、20代24例、30代6例、40代1例、50代0例、60代1例、70歳以上なし(年齢中央値22歳)で、特に20代男性が多かった。20代男性は国内感染・感染地不明を含めても同様に最も多く、これは従来どおりの傾向である(図1)

発症日の記載のある48例について、発症月をみると、4月(11例)、8月(11例)に多く、長期休暇の影響と考えられた(図2)。また、推定感染国別にみると(複数回答あり)、インド21例、バングラデシュ8例、ネパール6例、フィリピン4例、インドネシア3例、カンボジア3例の順に多かった(図3)。なお、バングラデシュの8例中5例は同一ツアーであった。

予防のためのワクチンとして世界的には全菌体ワクチン、経口生ワクチン、莢膜多糖体ワクチンの3種類があるが、全菌体ワクチンは使われなくなりつつある。わが国ではいずれも発売されていない。

予防の基本は感染経路の遮断であり、特に手洗

いの励行が重要である。流行地では、生水、氷、生の魚貝類、生野菜、カットフルーツなどを避けることが肝要である。また、無理な旅行日程などによって体調をくずし、抵抗力を落とさないよう心がけることも大切である。




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