国立感染症研究所 感染症情報センター
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パンデミック(H1N1)2009
Q&Aは順次更新作業を進めております

インフルエンザの流行に関する質問
1 インフルエンザにはどのような疫学的な特徴がありますか?
2

新型インフルエンザと今シーズンのインフルエンザの流行状況はどのようになっていますか?

3 インフルエンザの流行の歴史、特に新型インフルエンザ出現の歴史について教えてください。
4 過去に流行したインフルエンザはどのような型で、現在はどうなっていますか?
5 インフルエンザの外国での流行状況を教えてください。
1 インフルエンザにはどのような疫学的な特徴がありますか?

 インフルエンザは流行性の疾患で、流行時には短期間に全年齢層を巻き込み、膨大な数の患者が発生します。この理由は(1)インフルエンザは発症(発熱)の約1日前から感染性があり、発症から24時間程度がもっとも感染性が高いこと、(2)おおむね1人の発病者から複数の新たな感染者が生じること、そして、(3)潜伏期間が短く、短期間で急速に患者数が増加するためです。
従来のインフルエンザは、新型インフルエンザと区別して、季節性インフルエンザ(seasonal influenza)と表現されていますが、北半球の温帯地域でのインフルエンザの流行は例年冬季が中心で、日本では11月から4月ごろまでの冬から早春にかけて流行します。そのため、毎年のインフルエンザ発生状況についてみる場合、冬季を中心に9月〜翌年8月(第36週から翌年第35週:報告週対応表)を1シーズンとしてみています。
感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律(感染症法)に基づく五類感染症の定点報告疾患として、全国5,000の定点医療機関(小児科3,000と内科2,000)から報告されたインフルエンザ患者数は、近年では、12月から増え始め、1月の終わりから3月の初めにかけてピークとなり、学校や幼稚園等の春休みの影響もあって4月には収束することが多くなっているようです(IDWR週報過去10年との比較グラフ)。また、流行の開始やピークの時期、流行規模などはそのシーズンによって様々です。流行地域も2005/06シーズンは九州及び中国地域から、2006/07シーズンは本州中部から定点報告数が増え始め、2007/08シーズンと2008/09シーズンは北海道から報告が増え始めたように、一定の傾向は認められていません(インフルエンザ流行マップ)。性別での罹患状況には特に差がありませんが、年齢別では10歳未満の小児の罹患が多く報告されています(IASR Vol. 30, No.11 p285-286 )。
下図は、厚生労働省発表の人口動態統計」にある死因別の死亡統計上、インフルエンザによる死亡として届けられたものです(平成18年は暫定数)。近年は死亡のほとんどを高齢者が占める傾向が続いています。すなわち、インフルエンザは罹患率の高い年齢層と致死率の高い年齢層との乖離(かいり)がある疾患であり、これも疫学的な特性のひとつです。





インフルエンザの大きな流行があると、非流行時に比べ死亡者数が著しく増加する傾向が認められます。世界保健機関(WHO)は、これを「超過死亡(excess death, excess mortality)」と呼ぶ概念で、インフルエンザの流行の社会への影響の大きさを評価する際に利用することを推奨しています(IASR Vol26, No11 p293-295)。超過死亡数は下図のごとく、数理モデルによって「インフルエンザが流行しなかったとしたら期待される死亡数」を設定し、それの上限である閾値と実際の死亡数との差を持って計算します。実際の計算値は、全国で07/08シーズン2,657人、08/09シーズンは811人となっています。





また、インフルエンザによる死亡数に関しては、感染症情報センターが全国19大都市のデータをもとに行っているインフルエンザ関連死亡迅速把握システムがあり、今シーズンもまもなく開始する予定です。上述の超過死亡数が、地方自治体から報告され、確定された人口動態統計(全国)から推計されており、集計されて公表されるまで約3カ月かかるのに対し、この迅速把握報告による情報は週単位とタイムラグが短く、実際のインフルエンザによる国民への全体的なインパクトを良く反映しています。

2 新型インフルエンザと今シーズンのインフルエンザの流行状況はどのようになっていますか?

 新型インフルエンザA/H1N1(以降新型インフルエンザ)は2009年4月24日に米国及びメキシコから初めてその発生が報告され、WHOは4月27日(日本時間4月28日)にパンデミックフェーズ(WHOフェーズの説明参照)をフェーズ3からフェーズ4に引き上げました。日本では5月8日にカナダからの帰国時に高校生が成田空港検疫所において新型インフルエンザと診断された国外感染例が初めての報告となります。その後国内では5月16日午前1時に神戸市から、また同日の夕刻には大阪府から、海外渡航歴のない高校生の報告があり、さらに同地域において複数の高校を中心とした集団発生が明らかとなっていきました。この流行は兵庫県と大阪府が行った広範囲な地域における大規模な学校休業によって一時的には沈静化しましたが、海外からの継続的な新型インフルエンザ患者の流入や、患者からの感染拡大によって、2009年7月23日までに累積患者報告数は5,038人となり、この時点で新型インフルエンザ患者の全数報告は中止されました。                                           
 新型インフルエンザ患者発生が、従来から行われている感染症法に基づく感染症発生動向調査によるインフルエンザ定点医療機関〔全国約5,000箇所(小児科3,000、内科2,000)〕からの報告数を実際に増加させたと考えられるのは2009年第28週(7月6日〜12日)からで、その後報告数は大きく増加しました。
 新型インフルエンザを含む今シーズンのインフルエンザの流行状況やウイルス検出に関する情報は、地域の感染症情報センター、保健所や国立感染症研究所感染症情報センターホームページで知ることができます。

3 インフルエンザの流行の歴史、特に新型インフルエンザ出現の歴史について教えてください

 インフルエンザの流行は歴史的にも古くから記載されていますが、科学的に立証されているのは1900年ごろからで、数回の新型インフルエンザの世界的流行(パンデミック)が知られています。中でも、1918年に始まった「スペインかぜ(A/H1N1亜型)」は被害の甚大さできわだっています。当時、スペインかぜによる死亡者数は全世界で2,000万人とも4,000万人ともいわれ、日本でも約40万人の犠牲者が出たと推定されています。その後、1957年には「アジアかぜ(A/H2N2亜型)」が、1968年には「香港かぜ(A/H3N2亜型)」が世界的な大流行を起こしています。次いで1977年には「Aソ連型(A/H1N1亜型)」が加わり、その後2009年3月まではA型インフルエンザウイルスであるA/H1N1亜型(Aソ連型と呼ばれます)とA/H3N2亜型(A香港型と呼ばれます)、及びB型の3種類が世界中で流行を繰り返していました。
2009年4月に新型インフルエンザA/H1N1(以降新型インフルエンザ)の発生がメキシコと米国から報告され、同年4月27日にWHOはパンデミックフェーズ(WHOフェーズの説明参照)をフェーズ3から4に引き上げました。その後、新型インフルエンザは世界各国に流行拡大し、WHOは2009年6月11日にフェーズ6に引き上げ、世界的流行(インフルエンザ・パンデミック)であることを宣言しました(WHOホームページ)。新型インフルエンザは、日本の夏季においては南半球を中心とした流行となり、秋季に入ってからは主に日本を含む北半球の国々において、季節性インフルエンザの流行よりも早い時期に流行の到来をもたらし、2009年12月現在においても継続しています。今回の新型インフルエンザが、今後季節性インフルエンザとして定着するかどうかはまだわかりませんが、その流行の推移については注意深く観察していく必要があります。

4 過去に流行したインフルエンザはどのような型で、現在はどうなっていますか?

 各シーズンに、2種類あるいは3種類の混合流行であることの多いインフルエンザですが、日本では、2000/2001、2001/2002シーズンは、2種類のA型インフルエンザ〔A/H1N1亜型(Aソ連型)及びA/H3N2亜型(A香港型)〕とB型インフルエンザの3種類が同じシーズンの中で検出されていました。2002/2003シーズンからの3シーズンは、従来のようにA/H3N2亜型とB型2種類の流行となり、A/H1N1亜型はほとんど検出されませんでした。 過去3シーズン、2006/07、2007/08、2008/09の過去3シーズンは、ともにA/H1N1亜型、A/H3N2亜型、B型の3種類の混合流行でした。しかし、3種類の混合とはいっても、2006/07シーズンではA/H3N2型とB型で90%近くを占め、2007/08シーズンではA/H1N1亜型が12シーズンぶりに多数を占め、また、2008/09シーズンでは当初A/H1N1亜型が多数を占めた後にシーズンの後半になってB型の流行が発生しました。このように、最も流行するウイルスの型や、それぞれの占める比率はそのシーズンごとに異なっています。
2009/10シーズンは、2009年12月現在までのところA(H1N1)pdm(新型インフルエンザウイルス)の分離・検出が多数を占める状況が続いています。新型インフルエンザウイルス以外では、第36週以降A/H3N2亜型(A香港型)がわずかに報告されたのみで、A/H1N1亜型(Aソ連型)及びB型の分離・検出は報告されていません(IASR Vol.30,No.11, p286)。
なお、わが国におけるインフルエンザワクチン製造株の選定過程については、Q18をごらんください。
各地域及び全国のインフルエンザウイルスの情報は、患者の皆さんと全都道府県にあるインフルエンザ定点医療機関の協力によってウイルス検査のための検体が集められ、地方衛生研究所でPCR検査と分離検査が実施されています。ピーク時には週1,000件以上が報告されています。ウイルスの検出状況は地域の感染症情報センター、保健所や国立感染症研究所感染症情報センターのホームページで知ることができます。
地方感染症情報センターホームページへのリンク
地方衛生研究所ホームページへのリンク
地方衛生研究所一覧
  保健所一覧

< 参考 > 我が国のインフルエンザに関連する調査
1.定点医療機関からの報告数:小児科約3,000、内科約2,000、計5,000の全国のインフ ルエンザ定点医療機関から週ごと(月曜日から日曜日までの1週間)に受診した患者数が保健所に報告されています。

定点医療機関から報告をもとにした流行の指標                
※1.インフルエンザ流行レベルマップ:過去の患者発生状況をもとに設けられた基準値から、保健所ごとにその基準値を超えた場合に、注意報レベルや警報レベルを超えたことをお知らせしています。これは、都道府県や保健所等の第一線の衛生行政の専門家・担当者に向けて、データに流行現象が認められることを注意喚起する目的で設けられた「警報・注意報発生システム」に基づいて作られたものです。(警報・注意報システムとは

※2.インフルエンザ罹患数推計値:一定の仮定の下で、全国の医療機関全体(定点医療機関以外を含む)を受診した患者数を求めることを罹患数推計、また、その求めた患者数を罹患数推計値と呼んでいます。罹患数推計値は全国の流行状況の目安となりますが、ただしこの推計値には医療機関を受診しない患者や小児科・内科を受診しない患者は含まれません。また、一定の仮定の下で計算されたものであって、後述するいくつかの課題があるので、使用や解釈にあたっては、この推計値が厳密なものではないことを念頭に置くことが必要です。また、定点医療機関の選定に伴う罹患数推計値の変動の大きさを表すため、推計値には罹患数の95%信頼区間がともに表示されます。これを推計値と常に一緒にみることが大切です。なお、罹患数推計値には毎週の患者報告に基づくもの(暫定値)と確定した患者報告にもとづくもの(確定値)があります。定点医療機関を可能な限り無作為に選定するという規定に沿って、罹患数推計は、都道府県ごとに、その選定の元となった医療機関全体から無作為に抽出されていると仮定しています。この仮定の下では、都道府県ごとに、定点医療機関の定点当たり報告数に全医療機関施設数を乗じることによって罹患数推計値が与えられ、また95%信頼区間が計算できます。この仮定は厳密に成り立っていなくてもかまいませんが、現実との乖離が大きくなると、罹患数推計値とその95%信頼区間が真の値から離れていきます。全医療機関と小児科定点での感染症以外を含めた受診者数の比較によると、小児科定点は受診患者数の多い医療機関から多く選定されている傾向があります。このため、罹患数推計値は真の患者数より過大であると考えられます。(推計値の算出方法は別項その他の素朴な疑問をご覧ください)

2.病原体定点からの流行株情報:定点医療機関の約10%が病原体定点として、咽頭ぬぐい液などを採取し、その検体を地方衛生研究所で検査しています。地方衛生研究所ではウイルスの分離を行い、型や亜型の決定、薬剤耐性遺伝子の有無などの詳細な検査を実施するほか発育鶏卵で分離されたウイルスは今後のワクチン株候補とされます。

3.インフルエンザ様疾患発生数:保育所、幼稚園、小学校、中学校、高校等におけるインフルエンザ様疾患の休校数、学年・学級閉鎖施設数の状況とその発生患者数を各学校および各都道府県の教育担当部局の協力を得て週単位にまとめて、把握しています。

4.感染症流行予測調査事業:厚生労働省が実施主体となり、全国約20〜30の都道府県、都道府県衛生研究所、国立感染症研究所が協力して毎年7〜9月に健常人から採血し、ワクチン株3株(A/H1N1亜型, A/H3N2亜型,B型)と抗原性の異なるB型インフルエンザウイルス、計4株のHI抗体価を測定し報告しています。調査結果は、10月末頃から国立感染症研究所感染症情報センターのHP上に速報として公開し、年齢別の抗体保有率と過去3年間の年齢別抗体保有率の推移を報告しています。また、この情報はその後のワクチン接種の勧奨などにも利用されています。
5.インフルエンザ関連死亡迅速把握システム:19大都市におけるインフルエンザによる死亡および肺炎による死亡に関するデータを報告していただき、それらから超過死亡数を推計しています。最終的には、確定された人口動態統計(全国)から毎シーズンの超過死亡は推計されていますが、これらは集計されて公表されるまで約3カ月かかるのに対し、この迅速把握報告による情報は週単位とタイムラグが短く、実際のインフルエンザによる国民への全体的なインパクトを良く反映しています。

5 インフルエンザの外国での流行状況を教えてください。

 インフルエンザは世界中で流行していますが、温帯地方では冬季に(北半球では12〜2月頃、南半球では7〜8月頃)流行が見られ、熱帯・亜熱帯地方では国により様々な動態をとり、年間を通じて低レベルの発生がみられる国や、複数の流行をみる地域もあります。流行するウイルスの型は国によって若干の差はありますが、大きな差はありません。米国疾病対策センター(CDC)は、アメリカ合衆国では、毎年数千万人、人口の10〜20%が罹患すると推計しており、年間に約2万人もの死者が出ていると報告しています。

新型インフルエンザは、2009年3〜4月に、メキシコ、アメリカで感染患者が報告され、4月28日(日本時間、以下同じ)、WHOにより正式に新型インフルエンザの発生が宣言されました。WHOはパンデミックフェーズ(WHOフェーズの説明参照)を4月28日にフェーズ4に、4月30日にフェーズ5に上げ、6月12日には世界的流行を意味するフェーズ6を宣言しました。つまり、新型インフルエンザは、その発生から約1カ月半で、世界的な流行に至りました。WHOによると、2009年11月8日現在、新型インフルエンザと検査診断された患者は、206を超える国や地域で報告されており、死亡患者は6250例以上となっています。冬季が終わった南半球での流行は沈静化したようですが、これから冬を迎える北半球の多くの国々では、例年より早くすでに新型インフルエンザの患者が増加しています。最新の世界の流行状況は、当センターの新型インフルエンザのホームページで知ることができます。このページから、WHOや米国CDCのホームページ などへもリンクしていますので、ご活用下さい。



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