国立感染症研究所 感染症情報センター
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パンデミック(H1N1)2009
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インフルエンザウイルスに関する質問
1 インフルエンザウイルスについて教えてください。
2

インフルエンザウイルスの型は何種類ありますか?

3 インフルエンザウイルスの変異について教えてください。
4 遊具や設備の消毒は必要ですか?、ウイルスは環境中でどのくらい生きていますか?
5 インフルエンザの消毒には、なにを使用すればよいでしょうか。
6 現状のパンデミックインフルエンザウイルスはどのようなものでしょうか?
1 インフルエンザウイルスについて教えてください。

 インフルエンザウイルスは、直径1万分の1ミリ(100nm)の多形性のオルソミクソウイルス科のRNAウイルスです。ウイルスは細菌とは異なり、生きた細胞の中でしか増殖できないため、インフルエンザウイルスは空気中や土壌中などの環境中では増殖しません。インフルエンザウイルスがヒトに感染した場合は、鼻腔や咽頭粘膜表面の上皮細胞にあるシアル酸に吸着し、エンドサイトーシスにより細胞に取り込まれたのち、膜融合によってリボヌクレオプロテイン(RNP)が細胞内に放出されます。このRNPは細胞核へ輸送され、その中で増殖したのちに、ウイルス粒子の形でノイラミニダーゼの働きにより細胞から切り離され、細胞外へ放出されます。

 インフルエンザウイルスは、核蛋白(NP)と膜蛋白(M)の抗原性に基づいて、A,B,C型の3つに大別されます。A型はさらに、ウイルス粒子表面のHA(赤血球凝集素)とNA(ノイラミニダーゼ)という糖蛋白が、それぞれ1から16番、1から9番までの種類があり、これにより、多くの亜型(理論上は16×9通り)に分けられます(次項参照)。B型も同様の糖蛋白を持っていますが、1つの亜型しかありませんし、C型はウイルス粒子表面にHE(ヘマグルチニンエステラーゼ)と呼ばれるひとつの糖蛋白しか持っておらず、やはり1つの亜型しかありません。HAとNAの2つの糖蛋白の抗原性の変異で、大きな流行が起こることがあるとされています。歴史的にA型が大きな流行を起していますが、B型もヒトに感染し流行を起こします。C型もヒトに感染しますが、大きな流行は起こさないとされています。 B型とC型の主な宿主はヒトで、まれにB型はアザラシ、C型はブタに感染すると言われています。一方A型は、もともとは水禽類、特にカモが自然宿主であり、すべてのA型インフルエンザウイルスの供給源となっています。これらからヒトを含むほ乳類、他の動物種に感染して、定着することにより、いろいろな動物種に広く分布しており、ヒトのインフルエンザウイルスもすべては、水禽のウイルスに端を発しています。また、鳥型やブタ型のインフルエンザウイルスは、本来その種特異的なウイルスですが、種を超えて他の動物に感染することもあります。

2 インフルエンザウイルスの型は何種類ありますか?

 A型やB型のインフルエンザウイルスでは、ウイルス粒子表面から棘状に突出した、スパイク蛋白と呼ばれる、HA(赤血球凝集素)とNA(ノイラミニダーゼ)の糖蛋白が、ウイルスの感染あるいは細胞内での増殖後のウイルスの放出に重要な働きをしています。

 A型のインフルエンザウイルスでは、Fouchierらによってユリカモメから検出されたH16(J Virol. 2005 Mar 79(5):2814-22)を含めるとHAは16種類、NAは9種類が報告されています。これらが様々な組み合わせで、複数の亜型として、ヒトや、ブタ、トリなどの多くの宿主に広く分布しています。例えば、A香港型といわれるウイルスはHAが3、NAが2という番号の組合せでH3N2となり、Aソ連型はH1N1です。これまでに、ヒトの世界で流行がみられたのは、H1、H2、H3亜型のウイルスによるもののみです。

 また、A型は多種の宿主を持っており、ヒトと動物の共通感染症としてとらえられています。なかでもカモは、現在知られているすべてのHA亜型とNA亜型のA型インフルエンザウイルスを保有しており、インフルエンザウイルスのいわゆる「自然宿主」とされています。これらのウイルスが他の水禽、家禽、家畜、そしてヒトでのA型インフルエンザウイルスの供給源となり、新しい亜型のウイルスがヒト世界に侵入し、ヒト−ヒト間で効率よく感染できるようになると、ヒト世界に定着して、新たに流行を起こすようになり、これは、パンデミック(世界的な大規模流行)を起こす原因となります。

 一方、B型のインフルエンザウイルスではHA, NAはそれぞれ1種類で、HA, NAの組合せによる分類は行われませんし、C型もHE(ヘマグルチニンエステラーゼ)しか持っておらず、やはり1つの亜型しかありません(前項参照)。

 このように、ヒトがあるウイルス型に対して免疫を獲得しても、異なるスパイク蛋白をもつウイルスに対してはその免疫が効かず感染・発症してしまうことが考えられるので、1シーズンにA/ソ連型(H1N1)インフルエンザにかかったあとA/香港型(H3N2)にかかったり、A型インフルエンザにかかったあとB 型インフルエンザにかかったりすることがおこります。

3 インフルエンザウイルスの変異について教えてください。

 インフルエンザウイルスは本来、非常に変異しやすいウイルスであり、インフルエンザウイルスのHA(赤血球凝集素)とNA(ノイラミニダーゼ)は、同じ亜型の中でもわずかな変化が常に見られます。ヒトに感染した際でも、体内では常に変異が起こっており、そのなかで生存に適したウイルスが世の中に出ていくことになり、一般的には、これはヒトにおける免疫による圧力によって、ヒトの免疫から逃れやすいものが、出てくることになり、このため、インフルエンザウイルスは常に、変異を繰り返します。これは、A/香港型(H3N2)のインフルエンザウイルスでも、その年によってワイオミング株類似ウイルスといわれるものであったり、カリフォルニア株類似ウイルスといわれたりするもので、これを連続抗原変異(antigenic drift)または小変異と呼びます。車のマイナーモデルチェンジのようなもので、抗原性に多少の変化がありますので、巧みにヒトの免疫機構から逃れ、感染を受けた場合に今までの免疫で防げる場合もあれば、防げない場合もあります。このため、ヒトによっては毎年のようにA型インフルエンザに感染することも起こりますし、インフルエンザの流行も毎年起こっています。この変異の幅が大きいほど宿主免疫の効果は低くなり、感染して発症した時の症状も強くなるとされています。

 A型は上述のマイナーチェンジを続けながら数年から数十年単位で流行が続きますが、突然まったく別の亜型に取って代わることがあります。いわばフルモデルチェンジで、これまでヒト世界で流行していなかった新しい亜型のインフルエンザウイルスがヒト世界に侵入することになります。これを不連続抗原変異(antigenic shift)または大変異といいます。1918年に始まったスペイン型(H1N1)は39年間続き、1957年からはアジア型(H2N2)に代わり、流行は11年続きました。その後1968年には香港型(H3N2)が現われ、ついで1977年ソ連型(H1N1)が加わりました。1977年のソ連型(H1N1)は、出現した際には中年以上成人の多くが1957年まで続いていたスペイン型と言われるH1N1亜型に対する免疫があったこともあり、多数罹患したのは若年層に限られていましたので、通常はこれはパンデミックとしては数えられてはいません。2009年の春までは、A型であるH3N2とH1N1、およびB型の3種のインフルエンザウイルスが世界中で共通した流行株となっていましたが、2009年春に、現在世界的に流行しているH1N1pdmが出現しています。

4 遊具や設備の消毒は必要ですか?、ウイルスは環境中でどのくらい生きていますか?

 インフルエンザウイルスが環境中でどのくらい生存し感染源となるかは、環境表面の状況(平滑か凹凸か)や気候条件(温度、湿度など)、あるいは付着したウイルスの状態と量によっても変わってきますが、通常の飛沫が付着した場合には、およそ2-8時間程度であろうと考えられています(CDC "2009 H1N1 Flu ("Swine Flu") and You" http://www.cdc.gov/H1N1flu/qa.htm   Contamination & Cleaning の項目)。したがって、もし環境表面にウイルスが付着していたとしても、一晩経っていればそこから感染する可能性はまずないと考えて問題ありません。

 ウイルスが生存している状況では、環境表面に付着したウイルスが手に付着し、それを鼻や口にもっていくことで感染する(接触感染)可能性があることが知られています。したがって、インフルエンザを発症した方が出入りしている病院などでは、頻繁に接触する環境表面(ドアノブなど)を適宜清拭することは接触感染の機会を減らすために効果的と考えられます。その場合は、アルコール等を用いての清拭を行うともっとも効果的と考えらえれますが、単純な水ぶきでも付着しているウイルスの量を減らす意味は十分あると思われます。清拭を行った後には手洗いや擦式手指消毒剤による手指衛生を忘れずに行ってください。もっとも、鼻汁や痰などがべたっと付着した場合等には、周りのタンパク質や粘液によってウイルスが守られていることがありますし、ウイルス量も多いので、こういう場合には、アルコール等で消毒しておくほうがよいと考えられます。

 学校や幼稚園等では、発症者がいない、もしくはほとんどいない状況であれば、環境消毒を行う意味は乏しいです。それよりも手指衛生を習慣づける方が重要と考えられます。発症者がいた場合にはその方が頻繁に触れていたところを清拭することで接触感染の機会は減ると考えらえますが、上記のように一定の時間が経っていれば特別な対応は不要です。

5 インフルエンザの消毒には、なにを使用すればよいでしょうか。

 インフルエンザウイルスは、その表面に脂質二重層の膜(エンベロープと言います)をもっているため、ウイルスの中では消毒薬には比較的弱い部類に入ります。56℃30分の加熱、紫外線、エーテルなどの脂質を溶かす溶媒や界面活性剤、次亜塩素酸ナトリウム、エタノール等により容易に不活化されます。エタノール製剤には、そのエタノール含量の様々なものがあり、通常は60〜80%が勧められていますが、これまでの実験結果から、50%v/vが担保されていれば、力価・株に関係なく15秒以内に4log以上の不活性化が可能と考えられています。

6 現状のパンデミックインフルエンザウイルスはどのようなものでしょうか?

 現在流行しているウイルスは、1918年にヒトで流行したスペインインフルエンザのウイルスが、ブタに入り、ブタのなかで感染持続、温存されてきたウイルス(Classical swine H1N1と呼ばれます)に端を発しており、このClassical  swine H1N1とヒトA/H3N2と間で遺伝子交雑をおこし、更にこれがトリインフルエンザとの間で遺伝子交雑し、トリプルリアソータントとなり、これが北米のブタの間で、温存されていました。このトリプルリアソータントのブタインフルエンザウイルスに、最後に、ユーラシア大陸のブタインフルエンザウイルスが交雑したものであるとされています。

 世界中に拡大した現在でも、ウイルスはほとんど変化しておらず、完全なブタ型のままで、かつ抗原性も当初のA/California/4/2009とほとんど変わっていません。少なくともこれまでに「強毒性のマーカー」として知られている高病原性の遺伝子的な特徴を有しておらず、アマンタジンとリマンタジンには耐性ですが、Neuraminidase阻害剤(オセルタミビルとザナミビル)には感受性です。動物実験では、季節性のA/H1N1ウイルスよりも、肺での増殖性が高く、より重症の肺炎を起こすことが報告されており、これは現在、重症例において報告されている病態と一致しています。

 これまでに、オセルタミビル耐性のウイルスが報告されていますが、いずれもH275Yの遺伝子変異があり、オセルタミビルには高度耐性ですが、ザナミビルには感受性です。これまでのところ、それぞれその後の感染の拡大はないと報告されています。

 本ウイルスは少なくとも現時点では、重症例から見つかっているウイルスも、軽症例から見つかっているウイルスと大きな違いはないとされていますが、今後、このウイルスがどのように変化していくかは誰にもわかりませんので、今後はサーベイランスによって、これらの変化を確実に迅速に把握し、対応に結びつけていく必要があります。

 尚、このウイルスは当初,Swine-origin A/H1N1 influenza virus (S-OIV)と記載されていましたが、その後、WHOにより、A/H1N1swl、A/H1N1v、A/H1N1pdmと変更され、現在は、一般名称としてパンデミック(H1N1)2009と記載されており、ウイルスの名称としては、A/H1N1pdmと記述されています。日本ではパンデミックインフルエンザの日本語の訳として、新型インフルエンザという言葉が使用されていますが、言葉の持つ「新型」というよりは、「パンデミック」の持つ意味の方が適切だと考えられます。



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